ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

民法あれこれ その三

2010-09-28 12:25:00 | 経済・金融・税制
「これって、非課税ですよね!」

仕事柄、この手の科白に出くわすことは少なくない。とりわけ電話相談で多い。国税庁のコールセンターの相談員などをやっていると、頻繁に聞かされる科白でもある。税法は厳密に非課税項目を規定している。その規定に合致すれば非課税だ。

なかでも困るのが、保険金って奴だ。

実はこれが曲者だ。個人の場合保険事故を起しての保険金収入は非課税であることが多い。具体的に言えば「心身に加えられた損害又は突発的な事故により資産に加えられた損害に基因して取得するものその他一定のもの」は所得税法9条によると非課税だ。

さらに所得税法9条は「相続、遺贈又は個人からの贈与により取得するもの」は非課税だとも書かれている。この辺りの規定を生読みすると、たしかに保険金は非課税だと思い込む心情は分らないでもない。

念のために言っておくが、これは個人の課税関係であり、会社(法人)は違う。ただ、まあ、常識に照らしても損害賠償的な性格が強い保険金を所得として課税することは適切ではない。

但し、事業者が受け取る収益保証的な保険は課税対象となる。また保険の内容によっては、医療費控除対象額から控除すべきものもあり、一概に非課税とは断言できない。要は中味なのだ。

もう一度確認するが、あくまでこれは個人の所得に関する規定だ。つまり所得税法の規定であり、これとは別に相続税法って奴があり、相続や贈与は相続税法で課税される。

ちなみに被相続人(亡くなった人)の相続人が受け取る保険金には、非課税の枠はあるが、その枠を超えた金額は当然に相続税が課税される。つまり原則として保険金は課税対象だ。

ところが、ここで厄介なのは民法上の扱いだ。民法は相続財産を、相続の発生時(つまり死亡時)にある財産だと規定している。そこで生命保険だが、これは被保険者(この場合は、被相続人)の死亡により契約の効力が発生し、死後に遺族から保険会社に請求される。つまり相続発生時には存在しない財産なのです。

民法を中途半端に勉強した人は、それゆえに生命保険金は相続財産ではない。だから相続税はかからないと主張します。これは正しくもあり、間違いでもある。

たしかに民法上の相続財産ではありません。実際、遺留分からも除かれている(異論あります)ので、私どもも相続争いが予想される場合の解決策の一つとして生命保険をお勧めすることがあるぐらいです。

ちなみに遺留分とは、法定相続分に満たない財産しかもらえなかった場合に、相続人が最低限の権利を主張する権利のことです。遺産争いの際に、しばしば「遺留分の減殺請求」として活用される法律行為です。そして、生命保険金は民法上の相続財産でないがゆえに、「遺留分」には含まれないことを活用した相続対策がしばしば行われているのです。

そんな訳で、相続の際に生命保険は非課税だと思い込む人はしばしば散見するのです。

もし、生命保険金に相続税がかからないとしたら、私なら全ての現預金を生命保険に投じます。現預金として持っていれば、その全額が課税されます。でも、生命保険として全額前払いしておけば、大半が相続税から逃れられることになるのです。あぁ嬉しい!

・・・残念ながら税務署は、そんなに甘くないです。

よくよく考えてみれば、たしかに被相続人の死亡時には生命保険金自体は存在しません。しかし、保険請求権はある。この権利は被相続人が稼いだ財産で賄われたものであり、やはり相続財産を構成するべきものです。

そこで税法は、生命保険金や死亡退職金を「みなし相続財産」であると規定しているのです。ただし、遺族の感情を配慮してか、法定相続人一人につき500万円の非課税枠を用意してはあります。

現在の民法が作られた頃も、生命保険などはありましたが、今日のように複雑なものではなかったはず。実務家として、「遺留分の減殺請求」逃れのために生命保険を活用することはありますが、正直迷うこともあります。いささか不公平に過ぎる気がするからです。

そのためか、近年最高裁判決(平成16年10/29)で生命保険を特別利益として、「遺留分の減殺請求」に含めるといった判決が出てしまいました。

法定相続分にせよ、遺留分にせよ、そろそろ見直したほうが良いのではないかと思う、今日この頃です。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする