ヌマンタの書斎

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戦争サービス業 ラルフ・エッセン

2010-09-13 12:24:00 | 
新潟空港は異様な盛り上がりの熱気に包まれていた。

北朝鮮に拉致されていた日本人数人を、海外の民間軍事会社の指揮の下での奪回作戦により、奪い返すことに成功したのだ。幾つもの国を経由して、数十年ぶりに帰国する拉致被害者を迎えようと、多くの日本人が空港に集まってきたのだ。

ことの起りは、何もしない日本政府に苛立ちを募らせた拉致被害者家族が寄付を集い、海外に拠点を置く民間軍事会社に奪還計画を持ちかけたことだ。イラク、アフガニスタンなどで実績を積んだ会社の指導の下で、日本から応募に応じた若者たちに軍事訓練を施し、最新の装備で北に侵入。

残念なことに日本人の若者数人が戦死したが、それでも拉致被害者を奪還しての快挙に、日本の世論は沸きかえった。その暴挙を苦々しく思っていた日本政府だが、日本の国内法ではどうしようもない。せいぜい事情聴取するのが関の山だが、歓喜に沸き立つ世論の盛り上がりをみると、無理なことは出来そうもない。

しかし、困ったことに奪還の際、中国資本の鉱山の設備に被害が生じたため、北京政府からの猛烈な抗議が出されており、国連の場で日本制裁案が出される有様だ。当然のことながら、北朝鮮は核兵器による恫喝も辞さない構えであり、心情的には北寄りの韓国では、ここぞとばかりに日本バッシングを騒ぎ立てる。

近年、アメリカに対して距離を置き始めた日本を苦々しく思っていたため、アメリカ議会及び大統領府は未だ声明を出さずに、日本政府をやきもきさせている。

平和憲法は意味をなさず、国内法では想定外の事態に日本政府は機能不全となってしまっている。返還に応じなければ、開戦だと騒ぐ北朝鮮に応対する間に、更なる問題が生じた。

なんと対馬列島に民間軍事会社の指揮の下、韓国の若者が武装して上陸して対馬の厳原警察署を襲撃し、署長を拉致して島を脱出。公海上から政治要求を突きつけてきたという。

さあ、どうなるニッポン。


もちろん、これはフィクションに過ぎない。だが、現実に政府の支配下にない民間軍事サービスを提供する会社があるのは確かだ。いや、あるどころではない。イラクにせよ、アフガニスタンにせよ、現在世界最強の軍事力を有するアメリカでさえ、この民間軍事会社の支援を受けねばどうにもならない。民営化の名の下に幾つもの民間軍事サービスを提供する会社が作られ、数千億ドル(円じゃないよ)の巨大市場を構成している。

アメリカだけではない。民間軍事サービスの利用者は拡大の一方だ。イギリスやドイツが兵站部門を民間に開放しているのを皮切りに、途上国での要人警護やテロリストからの防衛任務、はたまた自国の兵隊の訓練カリキュラムの作成まで業務は拡がるばかりだ。

かつては傭兵として侮蔑され、日陰者扱いであったはずなのに、会社の衣をまとって冷戦終結後の世界でぼろ儲けしている。顧客は国家ばかりではない。NGOのような非政府組織や国際的大企業も武装組織などから身を守るため、民間軍事サービスを利用している。傭兵を禁じていたはずの国連でさえ、その活動を支障なく遂行するため民間軍事サービスの利用をせざる得ない。

公表はされていないが、おそらく日本政府も使っている。イラクでの支援活動は、ほぼ間違いなく民間軍事サービスを活用していたはずだ。なぜなら当地での国連の支援活動は、民間軍事サービスが仕切っていたからだ。ましてや、自衛隊の隊員の死傷を恐れていた日本政府だ。危険な任務に民間軍事サービスを利用した可能性は高いはず。

便利なものだと安易に感心してはいけない。表題の本の著者は、この民間軍事会社の暗躍は民主主義を危うくすると警告する。国内法では縛れない国際的な軍事サービスを提供する民間軍事会社は、かつての傭兵軍団の再来でもある。

傭兵オドアケルに滅ぼされたローマを過去のことだと思い込むのは危険なことだ。20世紀でさえ、多くの国家が自国の軍隊の叛乱で政権を乗っ取られている。強大な軍事力を持つ民間軍事会社が、政治的存在にならない保証などない。

日本のように少子高齢化が進む社会では、自分の子供を軍隊に入れたがらない。そんなときに最新の装備を備えた民間軍事サービスがあったら利用したくなるではないか。事実、アメリカでさえ兵站部門は既に民間軍事会社に仕切られている。アメリカ国外最大の軍事拠点である日本にも、既にそのサービスは実現していると思われる。

そして、日本の自衛隊はアメリカからの兵站を前提とした部隊構成になっている。もはや無縁でいられるはずもない。

日本が平和でありたいと願うなら、最新の軍事知識は必要でしょう。とりわけ兵站音痴の日本ならばこそ、このような本は必読だと思います。
コメント (14)
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