ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

大阪ハムレット 森下裕美

2010-10-26 17:41:00 | 
可愛い絵柄に散りばめられた悪意、それが森下裕美の漫画の特徴だった。

人生って奴は、おそろしく不平等で、いかな努力も受け付けない不利な条件は誰にでも付きまとう。情けなくってイライラさせられるダメ人間はどこにでもいる。

外見の不細工さよりも、内面のえげつなさから敬遠される嫌な奴は、なぜかどこにでも必ずいる。どんなに一生懸命努力しても、生来の不器用さから失敗を積み重ねる不運な人も、決してなくならない。

森下の四コマ漫画は、素直な少年や、可愛らしいアザラシ(少年アシベ)で人気を博す一方で、その登場人物には必ず救いようのないダメ人間たちを登場させる。そこに森下の隠された悪意を読み取ることができる。

私はその悪意が気になり、面白いと思いつつもあまり積極的に読みたい漫画家ではないと思っていた。その森下が一皮向けた。

心に積もり積もった悪意が、底のほうに沈殿して、その上澄みが上質な香りを放つようになっていた。

登場人物たちは、いずれも可愛らしくもなく、むしろ不細工であったり、ダメ人間であったりする。故意にそのような人物ばかりを主人公に取り上げる。

だが、決して悲惨ではない。不器用な優しさや、控えめな心配りが読者の心を打つ。大阪の下町を舞台に繰り広げられる人間ドラマは、誰もが人生という舞台のハムレットであることを教えてくれる。

おそらく漫画家・森下裕美の代表作になるのではないかと私は思っている。絵柄で敬遠しないで、最初の一編だけでも読んで欲しい。半端な文訣?iが、裸足で逃げ出したくなるような珠玉の人間ドラマを鑑賞することが出来ると思うのです。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする