分かっちゃいるけど、出来ない。
なにがって、整理整頓である。私にもその気があるので理解できる。これは性癖に近いと思う。別に綺麗に整理整頓することが嫌いな訳ではない。でも、なぜかごちゃごちゃと放置されたが如き乱雑さに安らぎを覚えるのも確かなのだ。
不思議なことに、この雑多な放置物のなかに何があるのか、案外と分かっている。だから日頃差し障りがないので、なおさら整理整頓から遠ざかる。でも傍目が良くないので、さすがに仕事場だけは整理整頓を意識してやるようにしている。
ただし、月に一度だが・・・
月一どころか、まるでやる気がないのが表題の作品の主人公たるフロスト警部である。どんな忙しい時でも余計な下ネタを口に出さずにはいられない下品な男であり、どんな凄惨な事件現場でも、えげつない冗句が平然と口にでる無神経男でもある。
こんな上司と組まされたのが、巡査から昇進したばかりの若手刑事だからたまらない。本当は模範的な警部であるアレン警部の下に付くはずだったのに、警察署内に感冒が大流行して、しかたなくフロスト警部と組まされた。
警察は人手不足でてんてこ舞い。それなのに老人連続殺人事件から少女惨殺事件、殺人放火事件と、次々と仕事は積み上がるばかり。いったい全体、なにから手をつけたらいいやら分からない混乱ぶり。
そんな大混乱を平然と受け止め(もちろん下ネタ冗句は忘れずに)られるのは、日ごろからデスクが未整理の書類で大混乱のフロスト警部ぐらいなもの。疲労困憊の新人刑事を振り回し、失態に失態を重ね、そのうえようやく解決した事件は他の警部に横流し。
いったい、何をやらかすのか、この下ネタ下品警部は!
そんな新人刑事の不満は、軽く聞き流して、思いつくままに街を駆け回るフロスト警部はどこへ行く。
私がフロスト警部シリーズを読むのは、これで三冊目だがどうも推理小説を読んでいる気がしない。むしろ警察を舞台にしたエンターテイメント小説を読んでいる感に堪えない。
推理というロジックよりも、ドタバタと積み重ねた勘と、違法ギリギリの誤魔化し、そして時折みせる深い苦悩を抱え込んだものだけが分かる優しい情感。これだけで事件を解決に導くのがフロスト警部だ。
どう贔屓目に見ても名探偵とは言い難い。でも、名物警部であることは間違いない。実際、読みながら次は何をやらかしてくれるのかと、ついつい期待してしまうしね。
ありきたりの警察ミステリーに飽きたのなら、このフロスト警部シリーズはお勧めです。もっとも、もしフロスト警部が自分がかかわった事件の担当ですと挨拶に来たら、どんな顔をしていいのか、困るだろうとも思っていますがね。