007はどこへ向かうのだろうか。
イアン・フレミング原作のスパイ小説をショーン・コネリーがボンドを演じて世界的大ヒットを飛ばし、以来何度も俳優を変えてきたのはご存知の通り。
私が原作のジェームズ・ボンドのイメージに近いと思っているのは、3代目のロジャー・ムーアと五代目のピアース・ブロスナンの二人だ。一方、従来のボンドとは、まったく毛色の異なるのが、現在ボンドを演じているダニエル・クレイグだと思う。
率直に言って優雅ではなく、むしろ粗野に近い。だが優男ではないだけに逞しさが勝る。知性的とは言いかねるが、卑屈ではなくむしろ堂々たるものさえ感じる。
従来のプレイボーイたるジェームズ・ボンドからは遠いように思うし、スパイというより破壊工作員の印象のほうが強くさえある。
グレアム・グリーンやル・カレらが描いてきたイギリスの伝統的スパイ像から、フレミングのボンドはそれほど離れているわけではなかった。しかし、映画のジェームズ・ボンドは映画がヒットすればするほど、原作のイメージからかけ離れていった。
ダニエル・クレイグ演じるボンドに至っては、まったくの別人だと云ってもいいぐらいだ。ただし、クレイグが初ボンドを演じた「カジノノワイヤル」は別格で、これは最初に製作された映画版が、どちらかといえばコメディに近かったこともあって、私としても評価は高い。
クレイグ・ボンドの二作目はあまり良いとは思わなかったが、三作目の今作は従来の007を意識しなければ良い映画だと思う。序盤の派手なアクション・シーンから従来の路線に戻ったのかと思いきや、最後は過度なアクションに走らず、むしろ重厚ささえ感じさせた。
たぶん、007の映画としては地味な部類に属するが、上司Mの好演も手伝って私の評価は高い。
20世紀のボンドが奇想天外なハイテクスパイならば、21世紀のボンドは案外ローテクが魅力のスパイなのかもしれない。そのせいか、Qの後任のハイテク・おたく青年が偉く印象的。反面、ボンド映画の華であるグラマラスな美女や特殊装備満載のボンドカーには物足りなさが残る。
今後のボンドを占う意味でも、一度は観ておいて損はないと思いましたね。