ヌマンタの書斎

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大航海時代 森村宗冬

2014-04-03 12:02:00 | 

なぜにバーソロミュー・ディアスが特筆されているのか分からなかった。

中学だと思うが、歴史の教科書にアフリカの南端、喜望峰に到達した冒険家として、ポルトガルのディアスの名前を記載している。しかし、いくら教科書を読んでも、なぜにこれが偉業であるのかが分からなかった。

インドに到達したガマや、大西洋を横断してカリブ海の島々に到達したコロンブスの冒険の意義なら分かる。しかし、なぜにディアスが特筆されるのかが分からなかった。だって中途半端でしょ。

当時は授業でも、そのあたりの事情は素通りされてしまい、私のなかでもやもやした疑念だけが残った。この疑念は高校に進学して世界史を改めて勉強しなおしても、解消されることはなかった。

少し分かったのは、予備校での世界史の講義で、遅れてきたヨーロッパにとって先進国イスラムを迂回してのアジアとの交易の意義を学んだからであった。たしかに香料の値段が100倍も違えば、遠く喜望峰を超えてでも行く価値がある。

だが、それならなぜにもっと早期に行かなかったのか。この疑問はずっと残った。

表題の書を読んで、ようやくこの疑問を解消することが出来た。そうか、怖かったのか。

遠くシナから伝わった羅針盤は既にヨーロッパに伝わっていた。しかし、当時の海洋航行は沿岸沿いに陸地を横目で眺めながら行うのが普通で、目印などなにもない海洋のど真ん中に出て航海することは恐怖そのものであった。

怖かったからこそ、未知なる海に出ることを躊躇った。同時に、当時の地図は、古代のギリシャのプトレマイオスの地図を基本としていた。この古の地図では、アフリカ大陸はインドとの間にある地峡であって、アフリカ大陸の南端を回ってインド洋に出て、そこからインドに向かうことが出来るかどうか分からなかった。

いや、それどころか、地中海と大西洋の出入り口であるジブラルタル海峡から先は、未知の海域であり、14世紀になってようやくアゾレス諸島など大西洋上の島々を知った有様であった。当然、モロッコから南下した記録なんざ、まともになかった。

この未知のなる海に乗り出すには、それなりの動機が必要であった。一つは香辛料である。保存した肉を食べるに際し、香辛料を使うことで格段に風味が増す。この味覚を知ってしまったが故に、肉料理における香辛料は欠かすことのできない必需品であった。

しかし、未知なるインドからイスラム圏を経由し、イタリア商人から入手せざるを得ない香辛料は高額であった。香辛料一粒が銀一粒に匹敵した。おそらく原価は1%にも満たない。この香辛料をイスラム圏とイタリア商人を省いて入手すれば、巨額の富が得られるはず。

だからこそ、未知なる海を南下して、アフリカ大陸をぐるっと回ってインドに行けば大金持ちになれることは必至である。危険を冒す価値はある。

もう一つ、どうしようもなかった恐るべきイスラムである。マホメットがオリエントを征服し、地中海がイスラムの海と化してから既に数百年。7度に及ぶ十字軍遠征は失敗に終わり、今もなお強大なオスマン・トルコの恐浮ノ怯えねばならない。

なんとかしたいが、ヨーロッパにその力はない。しかし、古からの伝承によれば東方にプレスター・ジョンなるキリスト教を信じる強大な王国があるという。その国と連携をとってイスラムを挟み撃ちにできないものか。

そう教会や王に訴えて未知なる海に乗り出した冒険家は少なくない。けっこう本気でこの東方のキリスト教国の存在は信じられていた。事実、日本にやってきたキリスト教の宣教師たちのなかには、日本にキリスト教布教の痕跡があると報告しているものもいる。

更に付け加えるなら、黄金の国ジパングを初めとして、金銀財宝の魅力が冒険家を未知なる海に惹きつけたのは、紛れもない事実である。実際に、この大航海時代に日本からヨーロッパに輸出された銀は、当時の銀の三分の一に相当し、銀のインフレーションまで引き起こしている。

未知なる海に、金銀財宝が眠ると云った伝承は、日本の銀、インカの金といった事実にも後押しされて実に19世紀初頭まで冒険家を海に連れ出す口実となった。

いうなれば、未知への恐怖は金銀財宝の魅力には勝てなかった。それが空前の大航海時代を引き起こしたと云える。ポルトガルのエンリケ航海王子の支援のもと、ディアスが喜望峰を見つけて、イスラムを迂回しての東方への道を切り開いたことが、大航海時代の幕開けであった。

だからこそ、ディアスの名前は歴史教科書に刻まれるのだ。

日本の歴史教科書は、いい加減単なる事実羅列を止めて、歴史を考えさせる記述方式に変えるべきだね。わずか300頁に満たない表題の書を読み終えて、つくづく実感しましたよ。

コメント (2)
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