ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

拳児 藤原芳秀

2014-04-10 12:04:00 | 

やってみなければ分からない。

どうも私は不器用なようで、自分で実際にやってみたことがないスメ[ツは、どうもよく分からない。主に学校の体育の授業で覚える訳だが、私は一度もラグビーをやったことがない。そのせいで、どうもラグビーには関心を持てずにいる。

ルールや雰囲気は分かるのだけど、やはり自分でやってないので実感がわかない。それは格闘技も同様で、正式に習ったことはないが、習っていた連中にやられたのでボクシングや空手、日本拳法、合気道、相撲などは、その痛みを身体が覚えているので、ある程度分かる。

実際、殴られてみて初めて空手の正拳と、ボクシングのパンチが異質であることが分かる。柔道や合気道が得意とする体重移動の妙や、打撃系の格闘技のもつ独特の距離感は、理屈ではなく身体の痛みで実感として理解できた。

不器用というか、頭の悪い理解の仕方だと思うが、身体に刻み込んだ分だけその理解は深く残る。そんな私にとって未知の世界が中国拳法である。周囲に中国拳法を身に付けた人がいなかったので、映画や漫画の知識でしか持ち得なかった。

映画はもちろんブルース・リーの一連のカンフー映画であり、漫画では空手バカ一代である。だから、どうしても打撃系の格闘技としてみていたのだが、どうも実際は違うのではないかと思っていた。

あれは大学受験浪人の頃だが、新宿のゲームセンターで遊んでいた時に、トラブルに巻き込まれたことがある。気が付いた時には、友人が見知らぬ青年と組み合っていたので、大急ぎで駆けつけて引き離そうとした。ここは場所が悪すぎる。警察に補導されるならまだしも、下手するとどこぞの組事務所に引きずりこまれる可能性もあるからだ。

私ともう一人で割って入り、引き離そうとした時だ。加勢に来たのかと勘違いした相手の一人が、私に殴り鰍ゥってきた。「喧嘩はヤメ、ヤメ」と口にしながら相手の攻撃を払いのけようとしたら、不思議なことに受けた腕が引き込まれて、身体のバランスを崩した。

柔道での崩しに近い感覚だが、相手の打撃を払ったはずなのに、その受けた腕が巻き込まれるような感覚は、今までに経験のないものであった。おっとっととよろけながら、踏みとどまろうとしたときだ。

瞬間、妙な予感がして抵抗せずに、そのままバランスを崩した方向に身体を投げ出して、転がって受け身をとって立ち上がった。振り返って相手を見たら、驚いたような表情をしており、その態勢からなにか技を放った後のように思えた。

後で観ていた友人から聞いたら、倒れ込んだ私の頭上を蹴り技が通り抜けたようだ。もし私が踏ん張っていたら、間違いなくブッ飛ばされていただろう。バランスが崩れた状態では、殴っても力が入らないし、防御もままならない。私が転がって難を逃れたのは、幸運としかいいようがない。

その時、ピーという警笛がなり、警官が自転車で駆け付けてくるようだったので、双方慌ててその場を逃げ去った。代々木まで逃げ帰り、茶店で一服してあの場を思い返してみると、どうもあの相手の使った技はカンフー臭い。確証はなかったが、少林寺の覚えがある友人はあれは太極拳の動きはないかと意見していた。

ちょっと不思議な経験ではあったが、私はもう街の喧嘩からは足を洗ったつもりなので、どうこうする気はなかった。事実、まったく忘れていたぐらいだ。それを思い出したのは、表題の漫画を読んだ時だった。

この漫画は週刊少年サンデーに連載されていたものだが、そのなかで化勁という功夫(クンフー)の技が紹介されており、それをみて思い出した。あれがそうだったのかと、改めて再認識した。

今にして思うと、あれは稀有な経験だった。日本において本物の中国拳法を身に付けた人は、そう多くはない。よく誤解されているが、日本の少林寺拳法は、中国本土の少林寺拳とはいささか異なり、日本独自の進化(あるいは変化)を遂げている。

中国拳法では東京だと小金井の澤井道場が有名だが、ここは素人お断りである以上に怖い噂がいろいろあり、とても興味本位で近づけるところではない。だからブルース・リーのカンフー映画が大人気であった時でさえ、中国拳法は幻の武術であった。

その中国拳法が、分かり易く知られるようになったのは、この漫画のおかげだと断言できる。この漫画の原作者である松田隆智氏は、台湾で実際にカンフーを学んでおり、その経験を活かして日本でのカンフーの啓蒙に貢献した人でもある。

雑誌を創刊して、中国拳法の普及に努めたことで知られている。もっとも松田氏がどの程度強かったのかは、いささか不明であり、いろいろと物議を醸したと聞いてはいるが、当人は大会などには出てないので実力は未知なのも事実。

実際、この漫画において松田氏が語る大陸のカンフーについては、かなりの事実誤認があることも分かっている。それでも中国拳法を現実的な格闘技として広く知らしめた功績は大だと思います。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする