ターザンほど誤解されたヒーローはいない。
けっこう勘違いしている人がいるが、ターザンのオリジナルはアニメ映画ではない。20世紀初頭、アメリカで大流行した安価なパルプ紙を使っての子供向け活劇雑誌に発表された小説こそがオリジナルである。
作者のエドガー・ライス・バローズは、SF作家でもあり、「火星シリーズ」や「金星シリーズ」「地底世界ペルシダー・シリーズ」などで大人気を博していたが、最大のヒットはターザンである。
いや、パルプマガジン全体をみても、スーパーマンやスパイダーマンを遥かに超える人気を誇ったのがターザンであった。この原作の小説で描かれるターザンは、英国貴族であるグレイストーク卿の血をひくだけでなく、英明な知性、拝金思想に染まらぬ高潔な精神、そして作者バローズが理想とした南部紳士の気風をまといながらも、野性児としての力強さをもっていた。
しかしながら、そのターザン像は、映画「ターザン」で大きく歪められた。「オレ、ターザン。ジャングル守る。これチーター、友達」などとぶっきら棒に喋るターザンの映像が、その後のターザンを歪めてしまった。
しかも、五輪の水泳金メダリストであるジョニー・ワイズミュラーは、理想的なターザンとして映画を大ヒットに導いた。「ア~~ア~」と叫ぶワイズミュラーの姿は人々の脳裏に刻まれてしまい、原作のターザンは忘れ去られた。
だが、原作を読んでいた少年たちが成長して映画業界に入り、そこで改めて制作されたのが「グレイストーク」であった。原作に忠実なターザン映画として、一部では高く評価されたが、世界的な大ヒットには程遠かった。
これがハリウッドで製作されたのなら、二作目はなかったと思う。しかし「グレイストーク」はイギリスで製作された。だからこそ、二作目も作られたと考えてイイと思う。
これが表題の作品だ。二作目と記したが、実は微妙なところで二作目とは言い難い部分もあるが、本当のオリジナルといえる小説のターザンを好きな人なら、こちらのほうが気に入るはずだ。
ライバル映画の多い夏休みの公開だけに、大ヒットにはならないと思うが、これを機に小説の「ターザン」に関心を持ってくれる人が増えてくれたらいいなァと思います。
ただ、残念ながら、かつてターザン・シリーズを刊行していた早川書房はお蔵入りさせているし、創元推理文庫で人気のある作品だけをまとめているものだけが、現在書店に並んでいるのが実情です。
実に腹立たしい限り。売る気のない本の版権は、解放してもらいたいものです。