ヌマンタの書斎

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白夜の弔鐘 田中芳樹

2017-01-06 11:21:00 | 

人類が真に恐れるべきは、地球温暖化ではなく、寒冷化だと考えている。

温暖化が劇的に20度以上上昇となれば、地上の生物の大半は滅びるだろう。しかし、温室効果ガスによる気温上昇は、それほどではない。むしろ、一万年前に氷河期が終わり、気温が上昇(7~9度程度)した時は、地上の生物は大きくその個体数を増やしている。

もっといえば、恐竜が地上を闊歩していた時は、今よりも平均気温は10度以上高く、極地でさえ植物が生い茂る楽園であった。当たり前のことだが、気温が上がれば植物が生い茂り、それを食べる虫や鳥、草食動物が増え、必然的に肉食動物も増える。それが自然の摂理であった。

ただし、気温上昇は人間にとっては大問題である。生い茂る植物は、農作物のライバルであり、気温変化は降雨量にも影響を与え、緻密な計算のもとに作られた運河や、水道をダメにしてしまう。

地上の植生の変化は、新たな国境問題を引き起こし、難民の増加と、戦乱の多発が容易に予測できてしまう。現在の国家の多くが、今のままではいられない大激変を伴うことは必然であろう。

ただし、国破れて山河あり。新たな国家や、文明が起こり、その変化に対応できなければ滅び、対応できたものだけが生き残り、新たな繁栄を迎える。国家や大企業が地球温暖化を浮黷驍フは当然である。

それでも敢えて断言したい。本当に恐るべきは寒冷化であると。現実問題、現在の地球は比較的寒い時期に属する。つまり氷河期と、次なる氷河期の間の期間である間氷期だと考えられている。いつ、次なる氷河期に突入するか分からないが、それが今年であってもおかしくはない。

実際には、小氷河期とも云える短期間の寒冷化は、有史以降、最低一度はあったとされている。江戸時代にあった凶作の多発した時期がそれで、ヨーロッパでも飢饉が起こり、戦乱と餓死者、病死者が多発した期間であった。

この寒冷化の恐ろしさに比べれば、現在騒がれている地球温暖化なんて、穏やかな変化だと云える。ところで表題の書は、1980年代、未だ温暖化の話はなく、ソ連が健在な時代に書かれた田中芳樹の初長編である。

まだ新人らしい硬質な文章が微笑ましいが、なにより興味深いのは、ベーリング海温暖化計画である。ベーリング海峡に超巨大なダムを建設して、海流の流れを変えて、ユーラシア大陸北部のツンドラ地帯を温暖化する壮大な計画が背景となっているエンターテイメント小説である。

当時はSF作家という枠で筆を執っていた田中芳樹の意気込みが感じられるのが楽しい。実はけっこう長い間、幻の作品とされていたのだが、最近再販されていたので入手した次第。

正直、「創竜伝」や「ドラよけお涼・シリーズ」と似た雰囲気を期待すると裏切られると思うが、1980年代の日本のSF界に切り込もうとする若き田中芳樹の息吹が読み取れるのが、実に興味深い。私は、この作品が出る以前の田中芳樹を、短編作家だと思っていた。まさか後に「銀河英雄伝説」で大ブレークするなんて、思いもしなかった。

白状すると、地味な作品を書く泡沫作家だと思っていて、この作品を読んだ当時もあまり好印象はない。もっというと、私はこの作品を当初、買ったのでもなく、借りたのでもなく、本屋の立ち読みで済ませている。貧乏学生であった私の得意技は、本の立ち読みだったのだ。

今、こうして読み返してみると、後のベストセラー作家としての片りんは確かにある。でも、無理に読むほどの作品でもない。ただし、最近の田中芳樹に不満のある方は読んでみてもイイと思う。初々しい田中芳樹も悪くないもんですよ。

コメント (2)
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