ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

プロレスってさ 川田利明

2017-06-19 13:10:00 | スポーツ

今の俺をみてくれ!

そんな心の叫びが聞こえてきそうな試合であった。1992年の日本武道館における全日本三冠チャンピオンであるスタン・ハンセンに挑戦者・川田利明が挑んだ試合である。

ハンセンが全日本プロレスに移籍してしばらく、彼の身の回りを世話していた若手が、実は川田利明であった。世話係とは、選手の衣類、コスチュームなどの洗濯、靴磨き、荷物運び、些細な買い物と雑多な用事を任される。要は、使いっぱしりである。

その川田だがその後、幾多の試合を得て若手から中堅へ成長し、遂にはメイン・イベントの試合にも上がれるようになった川田である。単なるアマレス上がりの若手から、空手の蹴り技を覚え、多彩な攻撃が出来る成長株となった川田である。


しかし、ハンセンは川田を認めなかった。フロントに、なんであんなグリーンボーイと俺の試合を組むんだと文句を言っていた。だから、試合を組まされても、まともな試合をやらなかった。川田の技を受けようとせず、力任せに投げ捨て、叩きつけ、暴れるだけの、雑多な試合ばかり。

しかし、今回の王座挑戦での川田の意気込みは凄かった。試合が始まるや、ハンセンのお株を奪うラフプレーの嵐で川田が優位に立つ。ここにきて、ハンセンは、ようやく川田の本気に気が付いた。

ブレーキの壊れたダンプカーと異名を取ったハンセンが、アクセルを全力で踏み込んだ。ハンセンは自分が認めた相手でないと、なかなか全力を出さない。下手に全力を出すと、相手を怪我させてしまうからだが、今の川田なら大丈夫だと判じたのであろう。

私は、この試合を表現する言葉を持たない。

結果は、ハンセンの防衛成功であった。だが、観客は負けた川田の頑張りに喝采を送った。リング上に唐黷髏?cを傲慢に見下し、お得意のロングホーンのメ[ズで控室に戻るハンセン。

その後だ。ふらふらしながら、川田はハンセンの後を追いかけた。そして控室に入ると、ふらつきながらもハンセンに握手を求めた。一瞬驚いたハンセンであるが、ニコッと笑うと川田を抱きしめて握手に応じた。

ファンが選ぶ1992年のベスト・バウトがこの試合であった。

あのグリーンボーイ風情と馬鹿にしていた川田を、ハンセンが初めて認めた試合であった。ハンセン自身も、後の回顧録で日本における最も印象に残った試合の一つに、この川田戦を上げている。

長いこと日本でトップレスラーとして活躍したハンセンだが、実は日本人相手では意外なほど名勝負といわれる試合は少ない。対馬場戦くらいではないかと思う。そして次点がこの川田戦ではないか。私にとっても忘れがたい名勝負であった。

コメント (3)
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