現在、密かに進んでいるのが医師の二極化だ。
つまり稼げる医者と、そうでない医者である。前者は自由診療で稼ぐ医者であり、後者は社会保険診療で稼ぐ医者でもある。
自由診療の場合、その医療費を窓口で100%全額患者は払わねばならない。以前は少なかった医院でのクレジットカード利用可能が、この流れを大きく加速させている。
一方、社会保険診療では患者が窓口で3割、残り7割は社会保険診療基金から医者の口座に振り込まれる。社会保険診療基金は、国民健康保険などからの保険料収入により賄われている。
ところが、近年、社会保険診療の点数計算は下がる一方となっている。医者はこの保険診療の点数により診療報酬が決まるので、同じ診療、同じ患者数でも収入は確実に下がる。
東京だと、山手線の駅近辺にある、所謂駅前診療所などは、10年前と比べて平均で年額1000万近く収入が落ちている。社会保険診療を中心にしていた医師は、どちらかといえば中高年が多い為、今さら新規診療部門を増やすのもきつい。
また年齢的な衰えもあり、この世代の診療所の閉鎖が相次いでいる。その際、問題になっているのが、医療法人の出資持分の払い戻しなのだ。これは、医療法人制度が出来た頃には、想定されていなかった事態でもある。あの頃は、後継医師がいるはずだと信じられていたからだ。
しかし、今どきの若い医師は自分で独立開業するよりも、大きな組織に安住するタイプが少なくない。医療の高度化、診療科目の細分化により、一人の医師では対応できかねる事態が、それを更に加速化している。
また、せっかく子供が医師になっても「親父の診療所の器具、古すぎて使い方、分からねぇ」と後継を嫌がるケースさえある。結果、医院を継続できずに、解散となる。
そして、あの頃の設立された医療法人は、皆当たり前のように「出資持分、あり」であったから、解散すれば、出資持分に応じた残余財産の払い戻しが発生する。
これを、非営利目的の医療法人にそぐわないと噛みついたのが、「その一」に取り上げた厚生労働委員会なのである。
前回、説明したように、アメリカを筆頭に日本の医療制度に食らいつきたい投資家たちから、「なんだ、非営利といいつつ、実質的には配当しているじゃない。営利法人と同じではありませんか?」と言われるのが明白だからだ。だからこそ、持分あり医療法人を危険視した。
かくして、厚生労働省は日本の医療制度を守るとして、持分あり医療法人を、持分なしへ変更させようと躍起になった次第である。
私は日本の医療制度を、アメリカのような富裕層優遇制度に変えることには賛成しかねます。でも、自由診療制度を認めているということは、医者が自由に稼ぐことを黙認しているのと考えています。
実際、高額になる高度治療を民間の医療保険(ガン保険とかね)で賄うことを認めているのだから、あまりに非営利に拘りすぎるのもおかしいとも考えています。
また、医者が儲けてはいけないと決めつけるのは問題があると思う。実際、儲ける医療の典型である美容診療なんて、医者の腕に拠る部分が大きく、相当な努力をしないとその技術は磨けない。また勝手に決められる診療報酬にしたって、高すぎれば患者は自然と離れる。市場の価格調整機能は、医療の分野であっても、かなり機能している。
そのあたりの実情をよく認識せずに、持分なしに変更しろ~とやらかしたのではないかと私は疑っています。なお、長くなり過ぎたので、これで終わりにします。実は意図的に、持分なしに変更する場合もあるですが、それは別問題なので、今回は割愛します。