ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

トイレの花子さん

2018-12-28 15:58:00 | 日記

昔からトイレに係る怪談噺、お化けの話題は多かった。

だから、漫画「鬼灯の冷徹」に於いてトイレの花子さんを、日本古来の神様である埴山姫だとした展開は面白かった。もっとも埴山姫は、土の神、陶芸の神だとするほうが一般的だと思う。多分、トイレ⇒糞尿⇒肥料⇒土といった発想ではないかな。

もっとも埴山姫とは無関係に、江戸時代から厠神の風聞は続いており、伝統的にトイレを神聖な場所だとしてきたのが日本である。トイレに花を飾る習慣は、この頃からのものであるらしい。

世界的にみても、日本のトイレは質素ではあっても、清潔な場所であったと思う。そのうえ糞尿を肥料として農地に活用してきたので、トイレに対して悪印象があるわけではないと思う。

それでも汲み取り式のトイレには、どこか怪しい雰囲気があったのは確かだと思う。実のところ、私の実家が都内、しかも23区内にあるにも関わらず、ほんの十数年前まで汲み取り式であった。

これは、地元のある寺院が敷地内にある池の水源を気にして、下水道工事を拒否していたからだ。地元の与党議員が代替わりした時に、これまで黙殺されていた下水道工事の陳情が改めて議題にあがり、ようやく下水道工事が実施された始末である。

そのせいで、私には汲み取り式のトイレは結構身近な存在であった。幼い頃に、祖父母の家に遊びに行った時は、トイレに落ちたらどうしようと結構心配したものだ。大きくなっても、このトイレに入る時は、貴重品は身に付けないよう注意していたぐらいである。

ただ怖い思いをしたことはない。せいぜい、このトイレにカマドウマという大きな虫が出るのが、鬱陶しかった程度だ。ちなみに風通しは良いトイレなので、あまり悪臭はしなかった。まァ、冬が寒いのは致し方ない。

そんな私だが、トイレに関しては、怪しい噂、怪談噺が出るのは致し方ないとも思っている。

今から20年以上前のことだが、某繁華街の裏通りにお気に入りの中華料理の店があった。少し懐が温かい時には、その店で一人、ちょっと贅沢な夕食をとるのを好んでいた。

ただ、この店の入っているビルは、戦前からある古い雑居ビルであった。バブルの頃には、立退き騒ぎがあったそうだが、オーナーが頑固に売らなかったらしい。古いビルではあるが、戦前のコンクリ造りだけに、かなり頑丈な作りであったと思う。

ビルの中に入ると、天井や部屋の隅にある柱は、最近では見かけないほどぶっとい。同時に梁もぶっとくて、少し圧迫感を感じるほどであった。ビルに入っている会社事務所や飲食店も、長く入居していることが多く、古くても格式を感じる建物であった。

しかしながら、古いビルだけにトイレは、いささか貧乏くさかったように思う。水洗式ではあったが、昔のタイル貼りのせいか、綺麗に清掃してあっても、どこか古臭さは拭えなかった。

あれは年の瀬も押し詰まった12月の最終週であった。幾つもの仕事を片付け、年末調整の還付金で財布はかなり余裕があった。寿司にするか、ステーキにするかと迷ったが、一番近かったこのビルの中華料理の店に駆け込んだ。

その店は広東料理が売りであり、さっぱりとしていながら味がしっかりとしている料理を堪能出来た。お腹いっぱいになり、閉店間際まで飲茶を楽しんだ。会計を済ませて店を出た。外は冬の強風が吹き荒れている。外に出る前に、トイレに入ったのは、寒空にトイレを探すのが厭だったからだ。

既に時計の針は夜11時を過ぎており、大半の店が閉まっている。トイレにも人っ子一人いない寂しい夜であった。小用を済ませて、ボタンを押して水を流して、洗面所で手を洗っていた時のことだ。

いきなりトイレの排水溝から「ゴぅ~!」と何かを吸い込むような音がした。ビックリして振り返ると、そこには何もないし、誰もいない。このトイレは二階にあり、もしかしたら一階のトイレからの音かもしれないと思った。ちなみに3階以上はオフィスであり、とっくに全て閉っている。だから、エレベーターも昇れない。

階段を下りて一階に立つと、開いている店はなく、薄暗い廊下に私一人である。気になって一階のトイレを覗いてみようと思い、足を運んだが、途中で身体が硬直した。

トイレは修理中の看板がかかっており、釘打ちされて入れない状態であった。じゃあ、さっきの音はなんだよ・・・?

多分、少し前に読んだスティーブン・キングの「IT」のせいだろう。街の地下には怪物がいるのかと一瞬妄想したほどだ。不気味には思ったが、特に怪しい雰囲気があった訳でもない。

悩んでも答えが出るとは思えないので、私は足早にそのビルを立ち去った。不思議と振り返る気にはなれなかった。振り返ってはいけない気持ちになったからだ。

その後、年明けの一月にもそのお店で食事するため、日中にそのビルを訪れているが、全然怪しいことはなかった。多分、あれは気の迷いなのだと思うことにしている。

なお、残念なことに、そのビルは耐震基準を満たさないとかで、取り壊しになり、今は小奇麗なテナントビルになっている。ただ、軽量鉄骨造りなせいか、昔ほど重厚さを感じさせないビルになっている。

件の中華料理店は、場所を変えたらしいが、移転先が分からないのが残念でならない。私は怖がりな気性ではないと思うけど、古いビルのトイレに入ると、少し緊張するのは、あの音が忘れられないからだと思う。いったい、なんだったのでしょうかねぇ。

コメント
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