ヌマンタの書斎

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東京急行

2020-03-27 13:53:00 | 社会・政治・一般

東京急行は今も飛んでいる。

冷戦時代のことだが、ウラジオストク近郊の空軍基地から飛び立った偵察機が、北海道東岸をまわり東京近海まで南下し、時には沖縄近くまで行き、日本海を北上して帰投する偵察任務をしばしば行っていた。

これが通称・東京急行であり、その時使われる機体が世界最速のプロペラ機であるTuー95通称ベアーである。その最高速度は時速900キロであり、亜音速に近い。私は20世紀最高のプロペラ機の一つだと高く評価している。

しかし、日本では軍用機を真っ当に評価したがらない妙な雰囲気がある。軍事マニアには有名な機体なのだが、一般的にはあまりその価値が知られていないので、今回敢えて取り上げた次第。

まずなんといっても非常に個性的な設計であり、未だに追随機が存在しない。優秀な機体なのだが、当のソ連はもちろん、アメリカでさえ似たような機体の開発には失敗している。実際このベアーは、瓢箪から駒とも云うべき稀有な飛行機である。

第二次世界大戦後、ソ連は高速度の爆撃機がないことに悩んでいた。当時アメリカはB29の後継機としてB52フォートレスという大型ジェット爆撃機を準備しており、既に試験飛行も済ませていた。

もちろんソ連もジェットエンジンの開発には多額の投資をしていたが、燃費が悪く長距離を飛行する必要がある爆撃機に搭載できるものがなかった。そこでソ連はジェットタービン方式ではなく、ターボプロップ方式のエンジンを開発した。

これもジェットエンジンなのだが、ジェット噴射ではなく、プロペラを回転させて飛行するものだ。ただ、この方法では高速は出ないはずであった。プロペラというものは、超高速で回転させると、プロペラの先端が音速を超えてしまい、その衝撃波でプロペラを破損してしまう。

当時(実は今も)の技術では、その衝撃波の発生を抑えることができなかった。しかし、ツャ激t博士は二重反転のプロペラを採用し、低速でプロペラを回転させつつ、高速飛行を可能にしてのけた。

その結果、小型の高速戦闘機でも不可能であった亜音速での飛行が可能になり、しかも通常のジェットエンジンよりも低燃費であるため、航続距離は1万5千キロという前代未聞の高速爆撃機が出現した。

簡潔に説明してみたが、実際の製造は困難を極めたはずだ。事実、ベアーの高速飛行と長距離飛行の両立に驚いた西側諸国は、同様のエンジンを開発しようとしたが、遂に実現できなかった。まァ通常のジェットエンジンの高効率化に成功したので、無理する必要がなかったのも一因ではある。

それにしたってソ連の工業技術の水準の高さには、本当に驚かされる。ただこの機体、巨大な二重プロペラのせいで、独特の低音が轟音となって非常に騒々しい。そのせいで、隠密飛行には不向きな機体でもある。

当初は爆撃機として1952年に登場したが、後に偵察機として改造されたベアーが登場した。こいつが東京急行の主役であり、日本の空を守る航空自衛隊は数え切れぬほどのスクランブル発進を繰り返した。

自衛隊のF4ファントムと並行飛行するTu95の映像に見覚えがある方も多いと思う。初登場から60年以上となるが、今もロシアの大地を飛び立ち、日本近海への偵察飛行を繰り返しているというから驚きだ。

覚えておいて欲しい。今も過剰なまでに祖国防衛意識を持つロシアは、日本を潜在的敵国として、その防衛網の分析を怠らない。もちろん主たる目的は、在日米軍基地なのだろうが、日本の防空体制の偵察も決して怠らない。

日本は憲法9条により外国を侵略するはずないと思い込んでいる平和大好きな日本人こそ、このロシアの態度をよく考えて欲しい。ロシアは日本を征服したくて偵察しているのではない。自国の防衛、すなわち平和を守るために偵察飛行を今も続けている。

これこそが、世界基準での平和を守る姿勢である。少なくてもロシアは日本の憲法9条なんて、まったく信じていない。この現実を直視して欲しいものである。

コメント
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