ヌマンタの書斎

読書ブログが基本ですが、時事問題やら食事やら雑食性の記事を書いています。

アルスラーン戦記16天涯無限 田中芳樹 

2020-03-09 12:07:00 | 

30年は長過ぎた。

これだけは書いておく。第一部は傑作だった。ここで終わっていれば、私は名作として認めていた。だが第二部が始まり、出版元が角川から徳間に移ったあたりからおかしくなった。

まず新刊の刊行が遅れがちとなり、気が付いたら数年おきになっていた。表題の最終巻が出たのは一巻から数えて30年は経っている有様である。

30年と言う歳月は、人を変えるのに十分すぎる長さである。多分、途中から書きたくなくなっていたのだろうと思う。でも読者や出版社に促されて、義務感と嫌々感が折半するなか、ようやく終わらせた。

そんな安堵感が行間から漂うのが、なにより残念でならない。

30年、30年かかって書かれた全16巻の、田中芳樹最大の長編であると同時に、田中芳樹最低の駄作である。

架空歴史ものというかファンタジー小説である。当然に娯楽作品である。実際、7巻までは間違いなく面白かった。第二部に大いに期待した読者は私だけではあるまい。

しかし、田中芳樹は読者を裏切った。娯楽小説のなんたるかを忘れ、読者を楽しませるのではなく、自分を安堵させるために書き終えた。

前巻の最後で、ナルサスとアルフリードが死んだ時点で、私は駄作に終わることを確信していた。読むのを止めようと思ったのだが、最後まで読み切らないと30年かけた長編を駄作と言い切ることは出来ないと思い、敢えて読んだ。

暗い期待どおり、見事に無様なエンディングを迎えた。

初心忘るべからずという警句は、忘れる人が多いが故に生まれた。田中芳樹は見事に初心を忘れてしまった。

読み終えて私は無性にトールキンの「指輪物語」を再読したくなりました。本物の娯楽小説で紛い物の不味さを打ち消したくなったのです。

別稿で改めて総括したいと思います。

コメント (4)
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