ヌマンタの書斎

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贈与の怖さ

2020-03-12 12:03:00 | 経済・金融・税制

ニートが大人しいとは限らない。

この時節、確定申告の期限が3月15日であるため、私は大忙しである。ただし、今年は新型肺炎のせいで、期限が一か月延びての4月15日となったせいか、わりとノンビリ仕事している。

基本的には所得税の申告業務が中心だが、この時期に多いのが実は贈与税の相談だ。

相続税対策として事前に親族に少額の贈与を繰り返すことで、相続税の節税を図ることはよく行われている。いろいろとやり方はあるが、一番簡単なのは一人110万円の贈与を毎年やることだ。

贈与税は、財産等を貰った人が、その貰った財産のその年の合計額が110万円を超えた場合に課税される。つまり110万円ならば非課税となる。昔から資産家の方が、お子さんやお孫さんに対して毎年110万円の贈与を繰り返しての相続税対策はよく行われている。

ただ、この贈与は相続税対策になっても、必ずしも人を幸せにするとは限らない。

以下、守秘義務故に事実を大きく化粧していることをご了承いただきたいです。

かつては庄屋として多くの農地を持っていたAさんは、その農地の大半を手放すことで多額の資金を得た。その資金をもって賃貸不動産を多数建築して、大家として多額の収入を得る資産家として成功した。

そのAさんの悩みの種は、自分の死後にふりかかる相続税である。いくら銀行借り入れをして負債を増やし、賃貸不動産を建てることで土地の評価額を下げても、億単位での相続税は回避できない。

だからこそ節税のため不動産管理会社を作り、息子夫婦に経営を任せ、自分の死後もうまく資産が残るように努力してきた。上手くいっていると信じていた。

しかし大きな落とし穴が待っていた。それが孫であった。真面目な息子夫婦は後継者として文句のない実績だと思うが、どうも子供の教育には失敗したらしい。いや、失敗したのは、孫を甘やかしたA氏自身のせいでもある。

大手不動産会社の社員でもある息子と、公務員である息子の嫁は公私ともに多忙であり、孫はA氏宅で預かることが多かった。A氏も、奥様も孫が可愛くてついつい甘やかしてしまった。

学費の支援はもちろん、免許をとれば高級外車を買い与え、経験を積ませるとして優雅な海外留学も認めて充実した青春を送らせたつもりであった。そのほかにも、毎年の金銭贈与も続けてきた。何不自由ない青春を送ってきたはずだ。

でも、大人になると働くのを嫌がるようになっていた。英会話の習得と称して、一年の半分はハワイで過ごしていた。もちろん費用はA氏持ちである。帰国しても職に就く気はなく、毎晩人脈を広げると称して繁華街で豪遊する毎日。

さすがに父である息子が怒り、無理やり就職させたが一週間と持たずに解雇。あげくに性質の悪い女にひっかかり、親友だと思っていた友人にも騙されて、気が付いたら酒浸りの堕落した日々。

さすがに人間不信に陥り、自宅に引きこもって数年。いや、気が付いたら十数年たっており、外に出るのは深夜のコンビニだけ。後は一日中PCに齧り付いてのネット中毒となっていた。

さすがのA氏も、この孫の堕落ぶりには呆れ果てていたのだが、先日警察を呼ぶ大事となった。きっかけは、A氏の節税のために毎年やっていた子供や孫への金銭贈与であった。

なんと、この引きこもりのお孫さんが増額を要求してきたのだ。まず親が激怒したが、逆切れして家財を投げ捨てて暴れる孫を止めることが出来ず、遂には警察を呼んで事態の収拾を図った。

高齢のA氏はもちろん、既に定年間近な息子夫婦にも手におえない堕落した孫は、ニートなどと軽く呼べる存在ではなくなっていた。

冷静にみれば、この孫を堕落させてしまったのは、親と祖父母であろう。金を安易に与えすぎた結果、金を使うことだけを覚え、金を稼ぐことを教えなかった親と祖父母の責任は重い。

その一方で、A氏や息子夫婦に相続税の節税策の一環として、毎年の金銭贈与を奨めてきた税理士や弁護士の責任もあるのではないかと私は考えてしまう。

実際、私も実務では似たような贈与計画に係ることが多い。ただ、贈与を受けた側が、その事。に溺れて堕落してしまうことを何度も見ているので、私自身は慎重なほうだ。

子供や孫への安易な贈与は、本人のためにならないことが少なくない。絶対にダメだと言えないのは、その贈与を上手く活かせている実例も多数あるからだ。

贈与の仕組みが悪いのではなく、与える側、もらう側、それぞれの事情があるのは分かる。節税の手引きを謳った書物が多く出ているが、それを安易に真似すると、むしろ悪い側面が出ることは覚えておいた方が良いと思います。

コメント (2)
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