私は毎年、確定申告の時期になると、関東近辺の農家を訪問して、挨拶がてらに申告資料を預かってくる。
そこでビックリしたこと。
都市近郊農家ではあるが、けっこうな広さの農地があり、そこで活躍するのが軽トラックである。駅で待ち合わせ、農家の方の運転するクラウンで、そのお宅に訪問した時のことだ。
到着して、車を降りて、車を車庫に納車するのを待つ。すると、車庫には入れず、庭にそのまま置いている。車を大事にする方なので、ちょっと不思議に思って、車庫を見たら驚いた。
なんと、軽トラックが4台も置いてある。しかも、そのうち3台は新車だ。少なくとも昨年はなかったし、資産台帳にも載せていない。つまり最近、購入したのだろう。
数時間後、一通り話し合いを終えて、3台も同じ軽トラックを買った経緯を訊いてみたところ、その答えに驚いた。
その軽トラックはホンダのアクティなのだが、なんとこの春で生産中止であり、後継の車は作られないそうだ。その軽トラックがないと、農作業に支障が出るため、予備も含めて3台一気に購入したそうだ。
軽トラックは他のメーカーでも販売しているが、その農家の方に言わせると、一番バランスが良いのがアクティだそうだ。その農家では収穫した農作物の運搬以外にも、キウィイやブドウ、梨などの収穫の時、その軽トラックの荷台に上がって作業する。また発電機を積んで水の散布をする際にも活躍している。
だから、軽トラックは必需品であり、余分に買っておいて車庫にしまってあるそうだ。そのせいで、クラウンが青空駐車の憂き目にあっている。普通ならクラウンが屋根付き車庫であり、軽トラックが青空なのだろうけど、農家にとっては後車のほうが大事だそうだ。
なるほどねぇと思いつつ、農家の方の軽トラ愛に感心してしまった。
ご存じの方も多いと思うけど、現在日本で一番売れているのは軽自動車である。私が若い頃は100万円前後で買える格安の小型車との認識であった。しかし、現在の軽自動車は下手すると300万近い値段がする。
なのに、200万円以下の小型車よりも売れている。理由はいろいろあるが、なんといってもドライバーのためにギリギリ最低限の仕様でありながら、最大限の技術で使いやすく作られていることが大きいと思う。
その一方で、軽自動車は自動車メーカーにとって、極めて難しいジャンルである。とにかく利幅が薄い。一台売っても、メーカーの利益は10万程度だと聞いたことがある。
そのため、トヨタや日産は軽自動車は自分で作らず、スズキやダイハツにOEM生産を委託している。乾いた雑巾を更に絞ると言われるトヨタでさえ、軽自動車で採算を採るのは難しい。ついにホンダは諦めたのか?
実際問題、本田のアクティはマニア的な人気は高いが、それほど販売台数の多い軽トラではない。スズキのキャリーやダイハツに大きく水を開けられているがのが実情だ。日本一売れているN-BOXならいざ知らず、年間2万台に満たないアクティでは赤字販売だ。
ただ、件の農家の方は力説する。アクティはエンジンが車体中央部に配置されて、バランスが良く、不整形地でも安心して走れる。農道のフェラーリの異名は伊達ではないのです、と。
やっぱり凝るねぇ、本田は。こんなマニア的人気に支えられてきたが、やはり農業人口の減少が地味に影響しているそうだ。6月で生産終了なので、お好きな方はお早めに、だそうです。