アメリカで生まれたストックオプションという、まったく新しいインセンティブ報酬を巡る、日本の課税当局と納税者の争いは、二つの最高裁判決で確定したにも拘わらず、未だに60件余りの訴訟が継続しています。
一体全体、なんだってこれほどまでに混乱したのか、このドタバタ騒ぎの顛末を数回に分けて、私なりの見解を述べたいと思います。
おそらく、ほとんどの方は新聞やTVといったメディアから、ストック・オプションを巡る脱税といった視点からの報道を目にしていると思います。これは正しくもあり、不正確でもある報道です。ストック・オプションに関する税務上の争いには、大きく分けて2種類あります。
1 ストック・オプションにより得た利益を申告していない場合
2 申告はしているが、その内容(一時所得として申告)の修正を税務署から求められた場合
1に関しては、無申告であり、脱税との報道は当然のものです。問題は2の場合です。現在、高裁、最高裁で争われている訴訟の大半が、この2の場合です。ほとんどのマスコミ報道は、1と2を混同していることが多く、あまり適切な報道とは言えないと思います。
ここで、改めてストック・オプションの申告がいかになされたかを整理したいと思います。ストック・オプション自体は、予め決められた価格で株式(多くは自社株)を買える権利を与え、その与えられた社員の頑張りにより株価が上昇したら、その売却益を社員のものとする契約です。売却時の課税は、有価証券の譲渡所得ですが、その株を与えられた時の利益に対する課税がどうあるべきかは、当初税法にその取扱を明示した規定は存在しませんでした。
ストック・オプションの権利を付与された役員たちは、それが申告所得を構成すべきものであると認識していた方が大半でしたが、どのように申告すべきか迷い、国税局の納税相談部門へ赴き、そこで相談員から口頭で助言を受け、その指導に従い確定申告をしました。その当時の指導は、ストック・オプション付与による所得は、「一時所得」であるとのものでした。
ところが、平成10年の税法改正で、ストックオプション付与による所得は、「給与所得」と規定されました。そして税務署は、過去の申告について一時所得を、給与所得として訂正するよう納税者に求めたことが、今日のドタバタ劇の始まりでした。
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