入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

   ’18年「春」 (17)

2018年03月20日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 後1ヶ月もすれば今年もこの山道を、雨の日も風の日も毎日のように通うことになる。道の端に吹き寄せられた枯葉が、春の日を浴びて暖かく見えるのもこのころからだ。それにしても、この膨大な量の枯葉を目にすれば、森の持つ旺盛な生産力に改めて感動する。毎年これを、来る年もくるとしも人の生涯を超えるほどの長さ、飽かずに繰り返すのだ。やがて、枯草が息を吹き返し、繁茂していくといつの間にか、今年の落ち葉は見えなくなってしまうのだが。

 雪の融け出すのが今年はいつもの年よりか早い。日陰の残雪はしつっこくいつまでも長居を決めるだろうが、それでも仕事をするころには今年は、途中で車を捨てずに行けるだろう。はっきりと記憶しているわけではないが、12年間のうちで牧場まで車で行けたのは多分3回しかなかったと思う。前任者と交代した翌年から、仕事開始を10日ばかり早めて4月20日としたため、その分幾日かは歩くという、余計な苦労までという背負い込むことになった。連休が始まる前に小屋やキャンプ場の整備を済ませておくには、そのくらいの余裕が必要だったからだ。
 つい「余計な苦労」などと言ってしまったが、例年「ど日陰」の手前辺りから、1時間ばかりをかけて歩くことは、木々の葉が萌え出した早春の森の生気を身体中に浴びることができて、それはそれなりに気分の良いことだった。仕事を始めるにあたっての新鮮な緊張間も、静まり返った森の中の雪道を歩けばしみじみと味わえた。30分も行けば森を抜けて、一挙に視界が開ける。「樺の平」へ下る入り口に立つ1本の白樺が目に入がれば、その先は牧場の北門である。そこまで行けば空がいっぱいに広がり、雪を被ったアルプスの峰々が姿を見せ始める。爽快な気分が満ちてくる。いくら見慣れた牧場風景でも、初日からしばらくは色直しをした花嫁のように初々しく、一段と美しく見えるものだ。
 牧場には誰もいないし、声をかける人もいない。一人だけでする「仕事初め」で、そんなことは誰も知らないし、意にも介していない。小屋の前に立ち、来賓各位である権兵衛山や周囲の森に向かい一礼し、仕事開始を宣言し、今年もよろしく頼むと言い添えて儀式は呆気なく終わる。それで充分だ、加えて天気さえ良ければ。

 気の早い、と思うかも知れない。しかしこれからのひと月は早い。日の経つのも、そして雪が消えていくのも。
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