雨は大したことなかった。上ってくる途中の山室川に流れ込む無数の枝沢には、落下する水の白いしぶきは見えず、本流に当たる山室川の流れも拍子抜けするほどいつもと変わらなかった。大雨になれば未舗装の山道はさながら川と化し、奔放気ままな雨水が土を浚い、礫をも運ぶ。そんな悪路を通れば「車が壊れる」と本気で怒る人もいたほどだ。きょうも、明後日から予定のCM撮影のため簡易便所を運ぶ際にこの山道を来たらしいが、さすがに帰りは千代田子経由にすると言ってその人は苦笑いした。今朝の道路状況はそれほどとも思わなかったが、その方が無難だろうと同意しておいた。
もう、台風は東北の日本海を北上しているはずだが、小雨交じりの風は一向に衰えそうになく、このまま「台風一過」の好天は今度も期待できそうにない。どうもこういう天気、なんと言ったらよいのだろう、意地の悪い、粘着質な老人のようではないか。先ほど、名古屋からこれから発つと言って、こちらの天気の様子を問い合わせてきた人がいたが、先方が喜ぶような返事をすることはできなかった。
気になる牛たちは「雷電様」に通づる作業道の上と、「御所平」とに分かれていた。そのうちの雷電様組は「昨夜はやられた」というようにすっかりへたり込んだ様子で、中には顎を地面に置いたまま感情のない横目でこっちを見る牛もいた。その点、囲い罠の中の牛たちはいつ見ても変わらず、何もなかったかのように黙々と草を食べている姿が、今こうして見ていてもおかしくさえある。
きょうも同じ表現を使うが、これでまた季節は進む。もう、夏の名残などどこにもないここに、独り言の題名「晩夏」は相応しくない。落葉松の森の葉の色は渋みを増し、「焼き合わせ」のツタウルシには色付き始めた葉も目にするようになってきた。山ばかりか里もコスモスの花は咲き、稲田の色が日毎に黄金色に変わりつつあるのが分かる。森でも谷でも、そして里でも、季節の交代は終わったようだ。
「今はもう秋」です。小屋もキャンプ場も充分に余裕があります。FAXでも予約や問い合わせに対応できます。ご利用ください。入笠牧場の営業案内は「入笠牧場の山小屋&キャンプ場(1)」
「同(2)」をご覧ください。