入笠牧場その日その時

入笠牧場の花.星.動物

     ’22年「冬」(37)

2022年02月19日 | キャンプ場および宿泊施設の案内など


 昨夜9時を大分過ぎ、気になって外へ出てみた。夕方、雪が舞い、時折強い風の音がしていたから気になっていたのだ。天気予報も、確かあまりいいことを言っていなかった。
 ところが、気温は低かったが夜空は澄み渡り、凍れる月の光は地上を照らし輝かせ、近隣の家々の屋根が厳冬の月の光を浴びて濡れたように光っていた。
 そんな見事な「お月夜」に呼ばれているような気がして、すでに10時近く、少し遅いと思ったが、散歩に出ることにした。
 
 案じていた雪は洞口の坂に少し残っていた程度で道路は乾き、凍てついていた。いつもの山道を抜け、開田に出ると、まさに月の光が強力過ぎて、薄墨色の夜空には星々の出る幕はなかった。
 一面広大な雪原を見渡せば、西山には薄い帯状の雲が中腹を隠し、反対側の奥まった暗い一画では、仙丈岳が雪雲を集め格闘中らしかった。
 東の山際に、ひとつだけ赤黄色の星が目に付いた。牛飼座の主星だろうと目を空の中央に移動させていくと、柄杓の形を作る7個の頼りない星の光がそうだと教えてくれた。これから季節の進むのを待ちながら、アルクトゥールスは本物の牛飼が牧場へ上がるのを待っていてくれるだろう。

 瀬澤川に架かる大橋を渡る手前で、手にしたヘッドランプの灯りに気付いてくれたのか、1台の車が後方からきて、大きく迂回しながら通り過ぎて行った。
 二つの橋を渡ると、そこから緩やかな上りとなり、段丘の高台へと至る。視界が段々と下方へも、上方へも広がっていき、いつもの雰囲気を一変させた雪の原の先に、天竜川に沿った夥しい街の灯り、さらに山裾にまで続く人家の灯りが目に入ってくる。そして、うっすらとその背後に灰色の山並みが見え、その先は星のない夜空に譲っている。
 まるでその夜景を、老成した人の穏やかな朗読を聞くようにそこで眺めた。無限の時間とその一瞬を感じた。
 
 福与の集落で折り返し、寝静まった卯ノ木の村中を通り、天竜川の土手に出た。天竜川の川音が、新鮮な響きとなって耳に飛び込んでくる。そこも小さいころから親しんだ懐かしい場所である。
 集落へ続く分かれ道まで来て振り返ったら、西に傾いたオリオンがいつになく弱々しく、疲れたような姿で見送ってくれた。

 家に帰って、散歩の間ずっと考えていた通りワインを暖め、ゆっくりと味わった。昨夜が満月だったことを知り、それも納得した。(2月18日記)
 
 本日はこの辺で。明日は沈黙します。
 かんとさん、そうですか。それでもこれで一安心じゃないですか。
 

 


コメント
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