障害児に放課後の居場所を 3年で倍増、5500カ所に
臨床 2015年4月10日(金)配信朝日新聞
障害のある子どもに、放課後を楽しく過ごせる場を提供する放課後等デイサービス、通称「放デイ」が広がっている。国が制度化した3年前に比べ、全国の事業所数は2倍以上の約5500カ所に。ただ、スタッフの質の確保など課題も少なくない。
福岡市南区の一軒家に設けられた放デイ事業所「小さな目のクジラ」。3月の平日の夕方、小中学生ら10人が、スタッフと一緒にホットケーキを焼いていた。食べ終わると、仲間と散歩したり宿題をしたり。ビーズに糸を通していた、福岡市立小学校の特別支援学級に通う男児(9)は「僕、糸通し大好き」と笑った。
この事業所は2013年10月に開所。岸田満行代表(57)は「子どものころ、放課後には友達と日が暮れるまで遊んだもの。障害の有無に関わらず放課後の楽しさを知ってほしい」。
もともと障害のある子が放課後を過ごせる場は乏しかった。岡山市の旭川荘厚生専門学院の専任教員、泉宗孝さん(35)らが02年に岡山県内で母親を対象に行った調査によると、養護学校(現特別支援学校)の子どもが放課後に誰と過ごすことが多いかでは「母親」が最多の65・4%。1週間に友達と遊んだ日数は、91・7%が「0日」だった。
学童保育は原則、小学生に限られる上、施設やスタッフの面で障害のある子を受け入れにくい所も多い。放デイが始まる前は、障害がある子の放課後支援に特化した国の制度はなかった。保護者らが対策を国に求め、12年度に厚生労働省が放デイを制度化した。
放デイの各事業所は、保護者らが運営する例のほか、企業の参入も相次ぐ。ある企業の経営者は「ニーズが高く、宣伝しなくても確実に利用者が集まる」と話す。
「小さな目のクジラ」に長女の菜々花さん(8)が通う福岡市の看護師、堀江美和さん(42)は「本人も、とてもいい顔で帰ってくる。私もこうした場があるので働ける」と話した。
■質のばらつきに懸念
事業所が急増するなか、関係者からはサービスの質のばらつきを懸念する声が出ている。障害のある子どもへの対応が不慣れな指導者がいたり、子どもたちにDVDを見せるだけだったりする施設もあるという。
厚労省は今月、サービスのガイドラインを策定した。策定に関わった日本福祉大の渡辺顕一郎教授(児童家庭福祉論)は「質は担保する必要がある。子どもの発達や個人差を踏まえた支援が大事だ」と話す。
福岡市の社会福祉事業団は3月、放デイ職員の研修会を初めて開き、子どもの障害の理解と支援方法などを細かく説明した。担当者は「専門知識の乏しい指導員が多いと、子どもの適切な受け入れが難しくなる」。
法令で、職員の配置基準は利用者10人までの事業所は「2人以上」とされた。だが、障害のある子どもの放課後保障全国連絡会(大阪市)の原田徹事務局長(46)は「10人に職員2人では足りない。職員を増やせば給与は低くなり、知識や経験豊かな職員の確保が難しくなる」と指摘する。
放課後にこだわるのは「放課後は子どもの主体性を育む」との思いがあるからだ。「誰と何をして遊ぶのか。自己決定力を伸ばせば、将来につながる。だから放課後は大切なんです」
(山下知子)
◆キーワード
<放課後等デイサービス> 障害のある児童生徒が放課後や夏休みなどに通えるサービス。厚生労働省によると、2012年4月のスタート時の事業所は2540カ所、利用者は5万1678人。14年12月には5511カ所、9万2437人に増えた。事業所は都道府県などから認可を受ける。利用料は原則1割が自己負担だが、世帯所得によって上限が異なる。残りは、国や自治体が負担する。
臨床 2015年4月10日(金)配信朝日新聞
障害のある子どもに、放課後を楽しく過ごせる場を提供する放課後等デイサービス、通称「放デイ」が広がっている。国が制度化した3年前に比べ、全国の事業所数は2倍以上の約5500カ所に。ただ、スタッフの質の確保など課題も少なくない。
福岡市南区の一軒家に設けられた放デイ事業所「小さな目のクジラ」。3月の平日の夕方、小中学生ら10人が、スタッフと一緒にホットケーキを焼いていた。食べ終わると、仲間と散歩したり宿題をしたり。ビーズに糸を通していた、福岡市立小学校の特別支援学級に通う男児(9)は「僕、糸通し大好き」と笑った。
この事業所は2013年10月に開所。岸田満行代表(57)は「子どものころ、放課後には友達と日が暮れるまで遊んだもの。障害の有無に関わらず放課後の楽しさを知ってほしい」。
もともと障害のある子が放課後を過ごせる場は乏しかった。岡山市の旭川荘厚生専門学院の専任教員、泉宗孝さん(35)らが02年に岡山県内で母親を対象に行った調査によると、養護学校(現特別支援学校)の子どもが放課後に誰と過ごすことが多いかでは「母親」が最多の65・4%。1週間に友達と遊んだ日数は、91・7%が「0日」だった。
学童保育は原則、小学生に限られる上、施設やスタッフの面で障害のある子を受け入れにくい所も多い。放デイが始まる前は、障害がある子の放課後支援に特化した国の制度はなかった。保護者らが対策を国に求め、12年度に厚生労働省が放デイを制度化した。
放デイの各事業所は、保護者らが運営する例のほか、企業の参入も相次ぐ。ある企業の経営者は「ニーズが高く、宣伝しなくても確実に利用者が集まる」と話す。
「小さな目のクジラ」に長女の菜々花さん(8)が通う福岡市の看護師、堀江美和さん(42)は「本人も、とてもいい顔で帰ってくる。私もこうした場があるので働ける」と話した。
■質のばらつきに懸念
事業所が急増するなか、関係者からはサービスの質のばらつきを懸念する声が出ている。障害のある子どもへの対応が不慣れな指導者がいたり、子どもたちにDVDを見せるだけだったりする施設もあるという。
厚労省は今月、サービスのガイドラインを策定した。策定に関わった日本福祉大の渡辺顕一郎教授(児童家庭福祉論)は「質は担保する必要がある。子どもの発達や個人差を踏まえた支援が大事だ」と話す。
福岡市の社会福祉事業団は3月、放デイ職員の研修会を初めて開き、子どもの障害の理解と支援方法などを細かく説明した。担当者は「専門知識の乏しい指導員が多いと、子どもの適切な受け入れが難しくなる」。
法令で、職員の配置基準は利用者10人までの事業所は「2人以上」とされた。だが、障害のある子どもの放課後保障全国連絡会(大阪市)の原田徹事務局長(46)は「10人に職員2人では足りない。職員を増やせば給与は低くなり、知識や経験豊かな職員の確保が難しくなる」と指摘する。
放課後にこだわるのは「放課後は子どもの主体性を育む」との思いがあるからだ。「誰と何をして遊ぶのか。自己決定力を伸ばせば、将来につながる。だから放課後は大切なんです」
(山下知子)
◆キーワード
<放課後等デイサービス> 障害のある児童生徒が放課後や夏休みなどに通えるサービス。厚生労働省によると、2012年4月のスタート時の事業所は2540カ所、利用者は5万1678人。14年12月には5511カ所、9万2437人に増えた。事業所は都道府県などから認可を受ける。利用料は原則1割が自己負担だが、世帯所得によって上限が異なる。残りは、国や自治体が負担する。