がん社会はどこへ第1部 : 迷える患者たち/4 疑問や要望をメモで用意
毎日新聞社 2015年2月13日(金) 配信
書店の医療コーナーには、医師や従来の医療を批判する本が平積みになっている。このうち、がん医療では、抗がん剤治療に否定的な本もよく売れている。
医師と患者とのよりよい関係を求めて情報発信する神戸市在住の勤務医、村田幸生医師(54)は、医療不信の本の人気を懸念する一人だ。著書の「『医療否定』は患者にとって幸せか」(祥伝社新書)などで患者と医師の意思疎通について問題提起してきた。義父の大腸がん治療と死別も経験し、患者家族の立場も踏まえて「医者と患者はうまくいっているとは言い難い」と率直に語る。
●治療巡り対極
村田医師の義父は、抗がん剤治療で画像上がんが一旦消えたが再発し、亡くなった。医師の立場からすると「2年ほど寿命が延び、抗がん剤はよく効いた」と評価できる。しかし、家族の思いは「抗がん剤治療に手放しで感謝はしていない」と対極にあった。
「家族は最後に再発してがんが大きくなって苦しんだ記憶しか残らない。『抗がん剤治療をしたのに、やっぱり効かなかったのね』と」。その一方、医師が効果が低いと判断して「抗がん剤の投与はやめましょう」と言っても、患者側は「なぜあきらめるのか」と思う。
また、患者が、今のがん治療を批判する本を信じて「無治療」を希望してきた場合、「別の病院に行ってくれ」と怒り出す医師がいることについて触れ、「どちらの気持ちも分かる」と言う。「どんな治療をしても家族や本人が喜べなければ意味がない」と医師としてのもどかしさを語った。
●医師も「ずれ」実感
東京都医師会が都内の医師1927人から回答を得た調査(2011年)によると、医師と患者とのコミュニケーションギャップ(食い違い)について、「いつも感じている」(7・7%)▽「時々感じている」(42・9%)▽「たまに感じている」(44・3%)――と何らかのずれを感じている人が多かった。
医師のコミュニケーションと患者の治療効果について「とても影響がある」(61・0%)、「影響がある」(37・2%)と重要性を認識しているものの、コミュニケーションギャップが生じたときの医師の問題は「忙しすぎて、患者さんの気持ちに気配りをする余裕がない」が53・6%で半数を超えた。
一方、「患者側の問題」では、「自分の考えをうまく表現できない」(59・4%)という回答が最も多かった。
●積極的な関わりを
こうしたコミュニケーションギャップについて、宮崎善仁会病院(宮崎市)の消化器内科、押川勝太郎医師(49)は「患者さんの疑問や要望をくみ取る時間がないのが実情でしょう」と語る。その上で、「コミュニケーションについて病院はサポートしてくれない。患者さんもそれが治療に響くと意識していない。治療は一方的に医療側から受けるものだと思っていると不満がたまる。一緒に考えるスタイルが当たり前だと思ってほしい」と患者側からの行動を促す。
押川医師はがん患者の勉強会やサロンに毎月参加し、講義をしたり、患者からの疑問に答えたりしている。そこで聞く治療や主治医への不満の多くが、ボタンの掛け違いのような内容で、患者のちょっとした工夫で解決できるものだという。
「例えば自覚症状や気に懸かっていることを話してもらわなければ分からない。『医師にそんなことを言っていいの?』と遠慮する必要もない」
押川医師は限られた診察時間に要点を効率的に伝えるため、メモの持参を勧める。直接話しにくければ、手紙を渡してもらうのもよいと言う。「がんは人によって、生活によって適切な治療法が変わる。だからコミュニケーションは大事なんです」
国立がん研究センターがん対策情報センターの若尾文彦センター長も「医師へのお任せでもなく、自分だけで決めるのでもなく、しっかりとコミュニケーションを取って一緒に考えることで納得して治療を受けられる。医師に聞きにくい場合は、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに相談するのもよいでしょう」と背中を押す。
情報センターが運営する「がん情報サービス」のホームページでは「何を質問したらよいか分からない」との声に応え、多くある質問項目を載せた冊子「重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ」などのヒントも載せている。【山田麻未、三輪晴美】=次回は17日掲載
毎日新聞社 2015年2月13日(金) 配信
書店の医療コーナーには、医師や従来の医療を批判する本が平積みになっている。このうち、がん医療では、抗がん剤治療に否定的な本もよく売れている。
医師と患者とのよりよい関係を求めて情報発信する神戸市在住の勤務医、村田幸生医師(54)は、医療不信の本の人気を懸念する一人だ。著書の「『医療否定』は患者にとって幸せか」(祥伝社新書)などで患者と医師の意思疎通について問題提起してきた。義父の大腸がん治療と死別も経験し、患者家族の立場も踏まえて「医者と患者はうまくいっているとは言い難い」と率直に語る。
●治療巡り対極
村田医師の義父は、抗がん剤治療で画像上がんが一旦消えたが再発し、亡くなった。医師の立場からすると「2年ほど寿命が延び、抗がん剤はよく効いた」と評価できる。しかし、家族の思いは「抗がん剤治療に手放しで感謝はしていない」と対極にあった。
「家族は最後に再発してがんが大きくなって苦しんだ記憶しか残らない。『抗がん剤治療をしたのに、やっぱり効かなかったのね』と」。その一方、医師が効果が低いと判断して「抗がん剤の投与はやめましょう」と言っても、患者側は「なぜあきらめるのか」と思う。
また、患者が、今のがん治療を批判する本を信じて「無治療」を希望してきた場合、「別の病院に行ってくれ」と怒り出す医師がいることについて触れ、「どちらの気持ちも分かる」と言う。「どんな治療をしても家族や本人が喜べなければ意味がない」と医師としてのもどかしさを語った。
●医師も「ずれ」実感
東京都医師会が都内の医師1927人から回答を得た調査(2011年)によると、医師と患者とのコミュニケーションギャップ(食い違い)について、「いつも感じている」(7・7%)▽「時々感じている」(42・9%)▽「たまに感じている」(44・3%)――と何らかのずれを感じている人が多かった。
医師のコミュニケーションと患者の治療効果について「とても影響がある」(61・0%)、「影響がある」(37・2%)と重要性を認識しているものの、コミュニケーションギャップが生じたときの医師の問題は「忙しすぎて、患者さんの気持ちに気配りをする余裕がない」が53・6%で半数を超えた。
一方、「患者側の問題」では、「自分の考えをうまく表現できない」(59・4%)という回答が最も多かった。
●積極的な関わりを
こうしたコミュニケーションギャップについて、宮崎善仁会病院(宮崎市)の消化器内科、押川勝太郎医師(49)は「患者さんの疑問や要望をくみ取る時間がないのが実情でしょう」と語る。その上で、「コミュニケーションについて病院はサポートしてくれない。患者さんもそれが治療に響くと意識していない。治療は一方的に医療側から受けるものだと思っていると不満がたまる。一緒に考えるスタイルが当たり前だと思ってほしい」と患者側からの行動を促す。
押川医師はがん患者の勉強会やサロンに毎月参加し、講義をしたり、患者からの疑問に答えたりしている。そこで聞く治療や主治医への不満の多くが、ボタンの掛け違いのような内容で、患者のちょっとした工夫で解決できるものだという。
「例えば自覚症状や気に懸かっていることを話してもらわなければ分からない。『医師にそんなことを言っていいの?』と遠慮する必要もない」
押川医師は限られた診察時間に要点を効率的に伝えるため、メモの持参を勧める。直接話しにくければ、手紙を渡してもらうのもよいと言う。「がんは人によって、生活によって適切な治療法が変わる。だからコミュニケーションは大事なんです」
国立がん研究センターがん対策情報センターの若尾文彦センター長も「医師へのお任せでもなく、自分だけで決めるのでもなく、しっかりとコミュニケーションを取って一緒に考えることで納得して治療を受けられる。医師に聞きにくい場合は、がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターに相談するのもよいでしょう」と背中を押す。
情報センターが運営する「がん情報サービス」のホームページでは「何を質問したらよいか分からない」との声に応え、多くある質問項目を載せた冊子「重要な面談にのぞまれる患者さんとご家族へ」などのヒントも載せている。【山田麻未、三輪晴美】=次回は17日掲載
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