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[コロナ警告]医療の狭間<2>感染症医 育成進まず…「終わった学問」不遇の歴史

2022年11月13日 19時07分22秒 | 仕事
[コロナ警告]医療の狭間<2>感染症医 育成進まず…「終わった学問」不遇の歴史
 2022年11月12日 (土)配信読売新聞

 コロナ禍で最も病床が逼迫した昨夏の第5波、一人の男性医師が退職した。感染症の専門医だった。
 男性医師が勤務していた首都圏の民間病院は第5波から自治体の要請で新型コロナウイルス患者の受け入れを始めた。担当となった男性医師は、内科医の助けも借り治療にあたったが現場が回らず、院長に人手の相談をすると思わぬ一言を受けた。「ほかの医師は忙しいんだ」
 感染症医は、患者の診療だけでなく、治療法のアドバイスなど他の医師の支援・指導も行う。感染症流行時に院内の感染対策や診療態勢を構築する役割もある。こうした役割を担う医師は「ドクターズ・ドクター」とも呼ばれる。
 男性医師は、複数の医師による診療態勢を進言したが拒否され、「一部の医師に押し付けるようなやり方は、いずれ破綻する」と希望を失い病院を辞めたという。
 この事例を知る埼玉医科大総合医療センター(埼玉県川越市)の岡秀昭・感染症科教授(47)は「感染症医の役割が十分に理解されていない医療現場は少なくない」と指摘。それが、コロナで病床の拡充が進まない一因にもなったとみる。
司令塔役
 感染症医の人数は少ない。
 日本感染症学会が認定する「感染症専門医」は1688人(11月1日現在)で、医師全体の1%以下だ。指定感染症の受け入れ先となる「感染症指定医療機関」(のべ409か所)でも6割が専門医不在だ。
 しかし、コロナ禍のように多くの病院が感染症患者を受けざるを得なくなる時、感染症医は重要になる。
 最大150床のコロナ病床を設けた奈良県立医科大学付属病院(橿原市)では、「感染症センター」の医師が専門外の医師向けにマニュアルを作り、眼科や産婦人科など、ほぼ全ての診療科がコロナ診療に加わる態勢作りをサポートした。非内科系の医師は「センターを司令塔に病院全体でここまで乗り切れた」と話す。
 センターは、コロナ病床を設ける県内の医療機関の指導も行っており、県の担当者は「病床を拡充する上でありがたかった」と語る。
 「専門外」の病院がノウハウを学び、コロナ患者を受け入れた事例もある。
 関東脳神経外科病院(埼玉県熊谷市)は2020年春、コロナ病床を開設。その際、重症急性呼吸器症候群(SARS)への対応経験がある地元の感染症医を招き、感染者が利用する区画と、その他の区画を分ける「ゾーニング」や防護服の着脱の指導を受けた。
 脳神経外科医の清水暢裕院長(47)は「治療は調べて学んだ知識と急性期医療の知識で、ある程度対応できた。最初に感染対策で助言を受けられたのが大きい」と振り返る。
 最大20のコロナ病床でこれまで約900人を受け入れたが、病棟での看護師らの感染はゼロだという。
立て直し急務
 感染症医の活用が進まず、数が少ない背景を同学会理事の山本善裕・富山大教授は「感染症医は診療報酬で病院に貢献しにくく、冷遇されがちだった」と説明する。
 腫瘍を摘出する内視鏡手術、がん患者のための高度な放射線治療などには高い診療報酬点数が付く。感染症医にはこうした手技がなく、他の医師からの相談に応じても加点はない。指定医療機関でも専門医の配置は必須ではない。
 学問として軽視されてきた歴史もある。結核、赤痢など、人々を悩ませた感染症に効く抗菌薬(抗生物質)が登場。1970~80年代以降、「終わった学問」とみられた時期があった。同学会によると「感染症」の名が付く講座がある医学部は6割にとどまる。
 同学会は300床以上の各病院への専門医の配置が望ましいとするが、新たに2000人前後が必要で、厚生労働省の助言機関メンバーの舘田一博・東邦大教授(感染症学)は「パンデミックに対応するには人材育成を改めて考えることが不可欠」とする。
 コロナ禍を受け、鳥取県や岐阜県など大学に寄付講座を開設、専門医育成に乗り出した地域もある。
 次の感染症に備え、取り組みを進める必要がある。

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