
福岡県古賀市 ( 花見海岸 )
昨年の3月に亡くなった夏樹静子は福岡市在住の推理作家で、
『 Wの悲劇 』 をはじめとした作品は海外で翻訳され、
晩年のエラリー・クイーンとも親交があった。
社会性に富んだ題材を取り上げながら、
女性らしい繊細な描写で人間の心理を追求している。
糟屋郡古賀町 ( 現・古賀市 ) が舞台となった 『 暗い玄界灘に 』 は、
『 ガラスの絆 』 ( 昭和55年・角川書店 ) に収められた短編小説で、
室生久美子は、婚約者の白井岳夫が出張先の福岡で入院したという知らせを受ける。
岳夫の幼なじみで、無二の親友であったはずの峰岸 朗が、
見舞いの品に薬物を混入し、手術中のショック死に見せかけ岳夫を殺してしまう。
福岡市近郊の町での医師不足、無資格診療という医療問題をベースに、
屈折した男の深層心理を描いた作品である。
「 玄界灘は今日も灰色の靄に包まれている。
浅いU字型の海岸線に縁どられた湾内には、
いくつも小さな島が散らばり、その淡い緑の影が、
わずかに風景をやわらげてはいるが、海面は棘々しく黒ずみ・・・ 」
曇天の玄界灘は、峰岸 朗の暗い瞳と重ねられており、
この短編の背景であり、その黒い海と松林に代表される風土から
この作品が生まれた。
旧古賀町は、玄界灘と犬鳴連峰に挟まれた町で、
福岡都市圏のベッドタウンとして住宅開発が進んでいる。
町の東部の山あいには大正14年に開かれた 「 薬王寺温泉 」 があり、
福岡市近郊の湯治場として人気がある。
夏樹 静子 ( なつき しずこ、本名:出光 静子(いでみつ しずこ)、
1938年12月21日 - 2016年3月19日 ) は、
東京に生まれ、昭和30年に慶應義塾大学英文科を卒業。
在学中の昭和35年に 「 五十嵐静子 」 名で 『 すれ違った死 』 が
江戸川乱歩賞候補となった。
昭和37年に 「 夏樹しのぶ 」 名で 『 ガラスの鎖 』 を発表。
昭和44年に 『 天使が消えていく 』 を江戸川乱歩賞に応募、
昭和48年に 『 蒸発 』 で日本推理作家協会賞を受賞した。
主な著書に 『 喪失 』 『 風の扉 』 『 遠い約束 』 などがある。
ちなみに兄は、小説家でミストラル社長の五十嵐均。
夫である新出光社長の出光芳秀は出光佐三の甥。
長男は俳優の出光秀一郎。