「 ブルボンのたてがみ 」 栗色の宝物
九州では大雨が降っていた6月の末、北海道の早来にいた。
かねてから牧場を回ってみたいと思っていたので、
函館記念競輪の参加は何よりのプレゼントだった。
競輪が終わった次の日、
この春教員を辞めて北海道に移り住んだ、熊本市出身の桜木半治さんと
新千歳空港の到着ロビーで待ち合わせた。
桜木さんは済々黌高校卒業し、福岡教育大学を経て熊大へ、
そして横浜で教員をやっていた。
桜木さんと知り合ったのは競馬を通じてのものだったが、
実際こうして会うのは初めてであった。
新千歳で会ってから、そのままテンポイントで有名な吉田牧場に直行した。
吉田牧場に着くと早速馬房へ行き、
天皇賞馬のプリティキャストを見せてもらった。
そのあとテンポイントのお墓参りをして、
ミホノブルボンのいる吉田晴雄さんの家へ急いだ。
牧場から牧場までの移動は全て車になる。
隣同士の牧場でもかなりの距離があるからだ。
ブルボンのいる馬房に行くと、
カイバ桶に顔を突っ込んだままバリバリと青草を食(は)んでいた。
故障している右後肢に巻かれたバンテージが痛々しく目に映った。
「 あまり具合がよくないから、もう80日ちかく馬房から出してないんだ。
だからストレスがたまってイライラしているんだ 」 と吉田晴雄さんは言う。
この日はノーザンホースパークと橋本聖子の実家である橋本牧場を見学して
桜木さんの家へ泊まった。
ちょうど、作家の吉川 良さんもここに来ていて、
一晩中馬の話や競馬、そして文学の話などをしながら飲み明かした。
翌日、岩見沢まで競馬を見に行こうと盛り上がって眠ってしまった。
あれだけ飲んだのになんのその、ケロッとして
朝早くから午後の種付けに間に合うように岩見沢まで行き、
3レースまでして吉田牧場まで戻って来た。
ワカオライデンとラッキーキャストの種付けを見せてもらったあと、
新千歳まで桜木さんの車で吉川さんと一緒に送ってもらった。
その夜、札幌で騎手の南井さんと食事の約束をしていたので街へ出た。
結局この日も遅くまで飲んでしまった。
少々疲れたが、いろんな思い出を持って家へ帰って来た。
それから、すぐにお世話になった人たちにお礼の手紙と
九州のラーメンを送ったら返事が届いた。
前略御免下さいませ。
一昨日より久し振りに晴れましたが、相変わらずストーブを焚いております。
昨日は御地名産のラーメンと御丁寧なお手紙ありがとうございました。
牧場の見学だけで喜んで頂け、何よりでございました。
ブルボンのたてがみですが、これまで戸山調教師の棺以外には、
どなたにも差し上げた事ががざいませんが、
◯◯さんにだけですのでお納め下さいませ。
また機会がございましたら、お立ち寄り下さいませ。
乱筆ながらこれにて。
皐月賞、ダービーを制したミホノブルボンの栗色のたてがみは、
私の机の中に大事に大事に仕舞ってある。