Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

偏屈者の国際市場戦略

2008-05-28 | 試飲百景
レーブホルツ氏は変わり者である。昨年、氏の醸造所を訪問しようと電話をした節、1990年のワイン女王である奥さんが電話に出て、なにが試飲出来るかと尋ねると「全然ない」と答え、その後の試飲会への誘いもなかった。

なんと商売っ気のない醸造所かなと思ったのだが、今年はレープホルツ氏が会長を務めるVDP-Pfalzの記念年であり、是非押し懸けるために、電話で予約を入れておいた。追い返されるような状況を心配したからである。

電話口の親仁さんの声も支部長と言うよりもどこか職人風の一途さを感じた。いざ、出かけてみると、小さな町にあるワイン街道沿いの醸造所の門の前で道路工事をしていて車線が狭く駐停車出来なくなっている。変わり者は決して好かれないと思うのだが、それを自覚して、パンフレットにはメインストリームを避けながら世界的な支持を得ていると言うようなどこかの誰かが言うような能書きが見られる。

門を入ると奥さんが挨拶をするが、こちらもこうなれば負けずに変わり者である。「リストは何処にある」と、「あとのことは如何でもよいわい」と、リッターワインから試飲を早速始める。一グラムを切る残糖のリースリングは木で鼻をくくったようなもので、あまり感心しなかったが、少し以前ならば酒場などで糖尿病ワインとして飲まれていたものにも近い。次に、「雑食砂岩のキャビネット」に移るが、これもかなりの辛口で、なかなか頑固である。親仁の酌のついでに、「2005年の雑食砂岩キャビネットは自然発酵と聞いたが」とそれについての見解質すと、「無理してやらない」と言うことで、これは一筋縄ではいかず、なかなかやるなと感じたのだった。

シュペートレーゼへと移っていくと、流石に旨味が少しづつ出てくるが、素っ気無さは変わらない。ロートリーゲンデ層に続いてムッシェルカルク層へと味付けが濃くなっていく。

折からのインフルエンザらしき腸の不調から休み休み試して行くが、到底甘口などに行くほど元気はなく、休みながらサンドイッチなどを摘んで再びキャビネットに還ってくる。すると、食事への相性はまことに見事であり、雑食砂岩の味気無さががとても美味い。

予告されていた17時からの「レープホルツの講話会」では12種類の新旧のワインがコメントされながら試される。その中で、24時間の積み取りジュース「マイス」のつけおきなど、健康な葡萄からのエキスを残らず吸い取る方法が提示されて、そのワインの「ミネラル質の塩」の量がここから導かれていることを示唆していた。

また1996年を筆頭とする古いワインをそこに混ぜることで、ワインの成長の行くへを示し、新しいワインを「思春期のワイン」として扱うなど、ここのワインのあまりにもの突っつきの悪さを解消すべく、土壌の味覚を体験させながらの紹介となった。それは、思春期の二年ほどを経て落ち着いて来たワインらしいワインの対語であり、翌日訪れる会長のクリストマン氏の用語「思春期」とは若干異なる。また、三度目の飲み頃の山を四年からとすることが多いが、レープホルツ氏は五年からとしていたのが興味深い。その時点で、石油臭くないことが重要としているようであった。

貝殻質土壌のグランクリュ化への意欲は同時に市場の拡大を意味していて、生き様を見せるのではない、本物の偏屈者振りを示していたのがおかしい。なるほど、リースリング以外のムスカテラーなどを美味く作るコツを得ていて、市場を逃がさないのは、決して氏がヤクザな人間でなく、一途な職人としての生き方を知っているようで、その人間性に好感が持てた。

結局、この醸造所の最もスタンダードである雑食砂岩のカビネットとシュペートレーゼを、各々四本と二本注文すると、PCの前で「(ワインソフト)の画面が大きくならん」ともたもたしながらも、注文のために住所名前を書き入れた「票を置いて行ってくれ」と、同類の匂いをかぎ取ったようだった。

特筆すれば、これほどある種の食事に「旨味」を示すキャビネットはないわと、近い内にまた買い足しに行かなければいけないと考えさせるリースリングであった。リースリング以外の葡萄にも土壌の味を付ける文字通り「塩味」に満ちた「レープホルツのワイン」は、料理に味を添えるのである。



参照:
南北にワイン街道行脚 [ 生活 ] / 2008-05-24
スパイシーな相互感応 [ ワイン ] / 2008-05-26
活き活き横たわる五月鰈 [ 生活 ] / 2008-05-25
聖体節の百年際試飲会 [ 暦 ] / 2008-05-23
ドイツ旅行記2008年5月(第6日目:5月8日)その2 (DTDな日々)
コメント (2)
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