Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

来た来た、次ぎの鴨が

2009-10-20 | マスメディア批評
TVシリーズ「ヴァインラント」の第三回放送を短く振り返っておく。出先で立ち話をしながら見ていたので情報をメモ出来なかったが、番組自体がこの回は若干希薄な印象を受けた。それはなぜなのか?

番組はモーゼルの上流から下流へ向う方向で始る。最初の訪問地は伝統的なブドウ栽培としてリースリングではなくエルプリングをワインにするニッテルの農家である。何か顔に見覚えがあるのでもしかすると可也昔訪ねた事があるかも知れない。この始まりからして、その葡萄の種の弱い個性の如くどうしても番組の印象が弱くなるのは致し方ない。

次に登場していたのがリースリングを営むチリケンさんである。BLOGにて噂などを聞いていたが想像以上に普通の甘口ワインやゼクトを営む醸造所であり、番組での印象は確かその常時摂氏10℃に保たれている9メートル地下のセラー以上には殆どなかった。

その次に甘口王エゴン・ミュラーが映し出される。作業やけならず旅行やけのような顔色が、その営業姿勢を上手く反映している。川面を遠く見下ろすワイン地所は昨今の温暖化で利を得ているのだが、必ずしも恵まれた地所ではないが繊細なワインが出来ることを ― もちろん12月まで収穫を待つという ― 素直に喜んでいる様子が川面を背景とした面長のシルエットが、なんともよい斜面の上からのカメラアングルなのだ。リースリングに専念して現在の体制を築いたのは最近であることから逆に四世とかなんとか名乗るのに滑稽味が描かれていて、プロデューサーの微妙な視線がここに見て取れた。

それに比べるとフォン・シューベルト氏はジープに載る姿などで、カメラ視線で下から舐められる。如何にも氏の横柄な雰囲気をそのまま伝える。そして氏がその地所で語るルーヴァーの地所のモーゼルともザールとも異なる特殊性はまさに先日体験して来たばかりである。相対的にもう少し映す場所があったかと思うのだがそれをしなかったのは、フォン・シューベルト氏が合衆国から帰ってきて、更に明くる日は個人客への割引率などをチェックしている忙しさによるのだろうか?私は彼のことを「実業家タイプ」だとプロデューサにいったが、彼は「それだけではないもう一寸」といっていた意味がこの辺りに隠されているようだ。

さて中部モーゼルへ下る前に懐古主義の醸造所クリュースラートが紹介される。期待していた先代の親仁ではなく既に嫁に行った娘がその地所アポテケなどを語る。嫁入り先などを考慮するとその真意がなかなか読み取れないのだが、貴腐ワインから先に片付けてしまうような摘み取りセレクションの方法や平野部にあるその地所などは逆に一種の総合マネージメント上の手練手管を感じさせるのである。なかなか手に負えない農家であることが見て取れる。

そのような平地を見せておきながらブレームにあるフランツェン家のカルモンの斜面には度肝を抜かされる。最高70度の傾斜となれば完全にロッククライミングの領域である。リフトなどの完備ではじめて作業が出来るといっても殆ど高層ビルの窓拭きのような負担の掛かる労働に違いない。

トラーベン・トラバッハのマルティン・ミューレンが新たな地所を手に入れたからといっても、モーゼルはその労働効率の悪さから三分の一の地所が消滅するとされている現実は変わらない。だから12月までどころか葡萄が真っ黒になるまで収穫せずに糖比重を糊代にする兵までまで現われるのだ。

中部モーゼルのヴェーレンの地所「日時計」では新世代のプリュム家の娘が、その親父さんと登場する。先日伺ったお母さんの話より更に進んでいるのは、世代交代を意識してか葡萄地所でのエコに配慮した言動だろうか。少しづつ進化して行くべきとする歴史観は流石に法学の徒だけのことはあろう。目許がお母さんに似ている。親父さんもお宅の居間で娘さんとすまして英国人のようにワインを燻らしている姿が面白い。

下流で登場するのは見るからにおかしな連中である。なにも本当は今回も登場したかったであろうドクター・ローゼンだけでは無いのである。クレメンス・ブッシュのグラウシーファーなどの土壌と甘口リースリングなどよりも、最後のレーヴェンシュタイン氏はもっともいってしまっていた。なるほどモーゼルの谷の潜んでいようが、世界に通じている訳で、「ここに俺あり」と世界中に甘いワインを供給しているのだ。

番組紹介にあった静かなモーゼルどころか形振り構わずに外貨を稼ぐモーゼルの躁な表情がこの番組の裏側にひしめきあっているような放送表現内容であった。途中映された昨年度のモーゼルワインのオークション風景にはシナ人がしっかりと映し出される。そこに「来た来た、次ぎの鴨が」との幻聴を聞く私がおかしいのだろうか?



参照:
八割ほどは、本当かな 2009-10-10 | ワイン
誉れ高いモンツィンガー 2009-10-06 | マスメディア批評
Weinland: Mosel (SWR RP)
葡萄畑の番人 (モーゼルだより)
農業に関する、二つのリンク。 (ザ大衆食つまみぐい)
コメント (3)
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