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映画・演劇のレビュー

『愛情城事』

2024-12-30 21:38:00 | 映画
この夏台湾で公開された作品が、全球影城で上映されている。先日『危機航線』と天秤にかけてあちらを見ることにしたが、これも捨て難いので、もう1日この劇場に通う。

ドラマは会話劇の場合、日本語字幕なしはさすがに苦しい場合があり不安だったが、大丈夫だった。シンプルなストーリーだから、会話の細部がわからなくても概要はなんとなくわかるし、細かいことは気にしない。

オールスターキャストの不思議なラブストーリー&ヒューマンドラマ。ホラータッチもあり、コメディもある。10話からなるオムニバス映画だ。台北を舞台にして、基本は2人芝居、10分くらいの短いお話が続く。新聞配達の男による話で全体をつなぎ、ラストは彼が改めて主人公になるホラータッチのお話。彼の働く新聞宅配所のビルが舞台になる。

この街のかたすみに生きる人たちの小さなドラマである。サブタイトルには『台北のおとぎ話』(『tales of taipei』)とある。たったひとりの誰かが、偶然他の誰か、と出会う。あるいはこれまで出会って一緒に時間を過ごしてきた誰か、と別れる。そんないくつもの(ここで描かれるのは10だけど)ドラマがさらりと綴られる。

まだ明けない夜中にオートバイを走らせる新聞宅配の男。誰もがまだ眠りの中にある台北の街をかれが縦横に走り抜けていくところから映画は始まる。

海を渡ってこの町にやって来て、結婚して、今はひとりぼっちになっている年老いた女性。彼女の家の前に車を停めるこの町に来たひとりの若いポールダンサー。ふたりが出会い海を見に行く。折紙で小さな舟を折り海を返す。それだけ。

2本目はコロナ禍のふたり。老人と若い娘。ワクチン接種に連れて行く。お互い秘密を抱えた男女。愛し合っているから知られたくない。なんと蛇女と狼男の話。笑える。

こんなふうに、10篇。あらゆるジャンルを横断して新聞宅配の冴えない中年男の視線を交え描かれていく。

ハイライトはチャン・チェン演じる胡散臭い男と風采の上がらない男がロトをするだけの話か。それともコンビニ前で再会した男女が(彼は彼女のことを忘れている、というか、知らないんだけど)一緒に缶ビールを買って、店の前で飲みながら話をするだけの話か。いや、それとも路上で花売りの老人と出会う中学生の女の子の話か。

すべての話が愛おしい。最後は先にも書いたが当然、案内人となる新聞宅配の男の話になる。このビルは建て壊しになり、2階から上はもう廃墟になっている。配達準備をしていると、上から誰かが、何かを落としてくる。気になってビルの上に向かうが、もちろんそこには誰もいない。このラストエピソードだけはたった一人の話である。

巨大な街、台北。ここにはさまざまな人たちが暮らしている。そんな人たちの出会いと別れ。これはそんな彼らのささやかな交流を描く珠玉の一編である。

偶然台中の街を歩いていて、この街の片隅にある街中の名画座でこの映画を知り(出会い)見ることにした。これもまた知らなかった映画。この夏、8月30日から公開された作品が、たまたまこの劇場の12月27日からお正月映画として一週間上映されている。こんな素晴らしい映画と出会えて嬉しい。10人の監督たちがこれを作った。しかも台湾人だけでなく香港,マレーシアほかさまざまな国の監督たちによるコラボ作品である。

この劇場には一昨日も来ている。劇場の男の子に僕たちふたり連れは覚えられていた。あの日本人たちがまた映画を見に来たよ、と。なんだか少し恥ずかしいような。

余談だが、入場料は80元ではなく、40元だった。(この12月31日までは)日本円にしたら(円安だけど)200円である。ふざけているのではない。これはほんとの話である。

さらにこれも余談だが、写真のポスターには「12月27日」とあるが、これはこの劇場だけの手作りオリジナルポスターである。公開日のところをわからないように変えてある。「8月30日」の上から貼ってある。そんな些細な気配りも素晴らしい。

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