ウイングカップ再演大博覧会参加作品。今年で10回を数えるウイングカップを記念してウイングフィールドが、かつて大々的に挙行していた再演博覧会を久々によみがえらせた。ほんとうならもっと盛大に企画したはずだったのに、コロナのせいで公演中止や延期もあり、ようやくこの作品からのスタートとなった。
記念すべき第1回作品は、ウイングカップの第4回大賞受賞作であり、遊劇舞台二月病の原点となる作品だ。今回で2度目の再演となる。もちろん、基本は変わらないけど、作品の完成度は以前とは画然の差がある。初演の時は作りたいという気持ちばかりが先走って作品自体は未熟だった。でも、大切なことは完成度ではない。描こうとするその姿勢だ。だから、あれはあれで実に感動的な作品だった。
1度目の再演を経て、今回は技術的にうまくなっただけではなく、取り組みに対しての深度も深まった。途中10分間の休憩をはさんだ1時間50分の作品にしたのはコロナ対策だけではなく、一気に見るのは、この重くて暗い作品に観客が耐えられないという作り手の配慮だろう。よくぞまぁ、こんな作品を作るものだ、といつもながら思う。どの作品も取り組む姿勢は同じ。
お話はわかりにくい。主人公の心情もストレートに伝わるわけではない。彼がなぜ殺人に至ったかも納得はいかない。だから、面白い。わかりやすいお話ではなくていいのだ。そんな単純な図式に収まるものではない。出身者への差別問題という単純な枠組みで括ることのできないものを見せていく。そのためにお話はどんどん韜晦していっても構わない。自分にだってわからないものがある。それが彼を突き動かす。
今回、前半と後半で、視点もタッチも変わる。特に女子高生の視点から描かれる後半が面白い。前半の重いタッチに耐えられなかった人たちには、この後半の距離感は心地よかったのではないか。単調になることなく、緩急をつけて見せていく。中川さんは繰り返しこの作品と取り組むことで、常に自分の立ち位置を確認しながら前進していこうとしているようだ。次も楽しみだ。