超人予備校『ヤドカリン』

いつもと変わらない芝居を見ることができる、という当たり前のことがこんなにも幸せなことだったんだ、という事を改めて実感させられた。今回もいつも通りの超人予備校である。実にたわいなく、それが実に愛おしい。見ながらなんだかとても安心させられた。

今回、コロナ禍で考えたことをテーマにして作品作りをした、とミツルギさんがパンフに書かれていたけど、（厳密にいうと、「コロナ禍の中で見つけたものを集めてみました。」と書かれていた）なんだか大仰な作品になっているかも、と一瞬思ったけど、そんなはずはない。彼は社会派なんかではなく、庶民派なのだ。自分目線でコロナを見据える。変わってしまった現実を見守りながら、そこにある驚きや面白さを追求していく。ここにはそんなエピソードが網羅されている。

ラストのステイホームから一歩踏み出して外の世界に出ていくと、そこには変わることのないいつも通りの風景が広がっている、というエピソードがなんだか胸に沁みる。世の中は変わってしまった。その事実は十分わかったうえで、それでも変わらないものがそこにはある。それを受け止めようとする。

「ヤドカリ」を中心とする。そこをテーマに据えて、さまざまなエピソードを網羅していく。ステイホームからインスパイアされたたわいないエピソードの連鎖。リモートでつながる人たちのゲーム。ヤドカリの冒険。それを誠実に見せていくことで今ある現実をしっかりと受け止めることが大切だという当たり前のことをきちんと見せてくれる。

だから、怖がることはない。勇気を出しておうちから出ることが描かれる。もちろん、何も考えず、軽はずみな行動をしたり、この現実を甘く見ることはよくないことなんて承知の上だ。でも、ちゃんと一歩踏み出そう、というメッセージはしっかり伝わってくる。気持ちのいい芝居だった。