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映画・演劇のレビュー

『青春金属バット』

2007-05-17 20:21:19 | 映画
 この鬱屈したドラマは彼らの閉塞感を見事に捉えており秀逸である。熊切和嘉はぐちゃぐちゃな生活のスケッチを淡々と見せていきながら、たまりにたまったそのエネルギーが一気に暴走していく、というようなよくあるドラマとしてこの映画を見せたりはしない。

 熊切監督は主人公3人の破滅的な行動を静かに見守りながら、ラストまでクールな視線を崩さない。坂井真紀のアル中の巨乳女は、ずっと暴れ続け、それが日常だ。そんな彼女の面倒をみる竹原ピストルは、金属バットを常に携帯し、何もしないで素振りしている。そして、安藤政信の警官は無気力の極地をいく。彼は自堕落で凶暴で投げやり。もうすべてに対して何の興味もない。妻がほかの男に走ったことを知って暴れるが、彼は妻なんかに全く執着していない。

 こんな3人が、ただ何もせず、この狭い田舎町所沢で、うだうだして過ごしている姿を映画は、だらっと見せる。コンビニ強盗やかつあげ、さらには銀行まで襲って、人まで死んだりするのに、彼らは別にそのことで変わったりはしない。

 この映画が見せてくれるこの<だるい空気>は衝撃的だ。こんなにも不健康で嫌な話なのに、スクリーンから目が離せない。彼らは何のエクスキューズもしない。ただこうして浮遊するように、ここで生きている。そんな彼らの背景となる街の風景がとても美しい。何の特徴もない地方都市なのになぜか美しい。セピア色の夕暮れが街を覆う。そんな中を酒ビンを提げてフラフラ歩く坂井真紀と金属バット片手についていく竹原ピストルの二人連れ。どこに行くあてもなく何をするでなく、歩く2人の姿が目に鮮やかだ。

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