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映画・演劇のレビュー

『女帝 エンペラー』

2007-05-17 23:19:37 | 映画
 この安直な邦題は、それだけで見る気力を損なってしまうが、実はシェイクスピアの『ハムレット』を五代十国時代の中国に移し変えたこの壮大なスペクタクル巨編は、『リア王』を戦国時代に置き換えた黒沢明の『乱』を思わせる大作である。これは安っぽいB級映画ではなく、重厚でため息が出るほど美しい映像詩でもある。

 スタイリッシュなアクションのすばらしさ(ユエン・ウーピンだ)と豪華な美術が融合した一大絵巻物は見る前の憂鬱を吹き飛ばしてくれそうに見える。しかし、ゆったりとしたペースで彼女たちの運命をなぞって行くドラマはストーリーの表層を見せていくだけで、それ以上のものが何もないペラペラさで、いくら贅沢な描写を見せてくれても、心は弾まない。

 チャン・ツイイーはお人形さんみたいで、内に秘めた熱情はなんら伝わらないし、ダニエル・ウーのハムレットはただの脇役でしかない。もう少ししっかり悩んで欲しいものだ。だいたい昨年の『王の男』を見た目には、この映画はただの紙芝居にしか見えない。これだけの大作なのに、もったいない仕上がりだ。決して悪い映画だとは言わないが、この映画を通して何を見せたかったのかすら伝わらない。

 フライヤーには「チャン・イーモウ、チェン・カイコーと並ぶ中国3大監督の一人、フオン・シァオガン」とあるが、フオン・シャオガンって誰だ?そんな監督知らんぞ。この映画を見る限りは先の2人には及ばない。ほんまに宣伝の人たちは嘘ばっかりで困ったものだ。だいたいこんな宣伝に誰が乗せられるというのか。それより悪趣味な邦題とポスター、フライヤーのデザインをなんとかして欲しい。

 後で調べたら、フオン・シャオガンの映画は2本見ていた。『ハッピー・フューネラル』と『イノセントワールド 天下無賊』だ。もちろんどちらも、たいした映画ではない。

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