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映画・演劇のレビュー

砥上裕將『11ミリのふたつ星』

2025-03-17 05:46:00 | その他
『7.5グラムの奇跡』に続く「視能訓練士、野宮恭一」シリーズの第二作。最初はなんだかあまり心地よくはないから「前作の方がよかったなぁ」なんて失礼な感想を抱いて読み始めた。灯ちゃんのお母さんである夕美さんの頑なさがそう思わせたのだ。娘の斜視を認めたくない。だから治療はいらないという姿勢が不快だった。だけど野宮はそんな彼女を時間をかけて説得し訓練をスタートさせる。

丁寧に書かれてあり、心に沁みいる。主人公の野宮のキャラクターがそのまま文体に乗り移ったみたい。ゆっくり時間をかけてお話は進んでいく。362ページ。

5つの話からなる長編だが、描かれる時間は長くはない。1年。冒頭のエピソードで登場する灯ちゃんの話が全編を貫く。4歳児の彼女が斜視を患い訓練によって少しずつ改善していく過程をもどかしくなるほどに丁寧に追っていく。彼女の抱える問題は困難で斜視に対する母親の認識、不安も大きい。彼女たちの置かれている現状が困難だから治療も困難を極める。だけど灯ちゃんのために野宮は全力を尽くす。本来ならここまでしないし、できない。だけど周りの協力があり実現する。だけど、灯ちゃんの治療はある日突然終わりを告げる。彼女が引越しすることになったから。ここまでが第1話。

灯ちゃんの話の背景にして各エピソードでは他の患者たちとのドラマが交錯していく。こちらも困難なことばかりだ。まだ新米の視能訓練士である野宮は毎日いっぱいいっぱいで過ごす。そこに訓練士の先輩である広瀬さん(僕と同じ苗字だ!)が大学院に行くことになると告げられる。

この短い時間を描く長い小説の中では、突然の失明の危機が何度となく描かれる。こんな都合よく失明の危機に晒される人たちと遭遇するのはあり得ないだろうけど小説なら可能だ。(というか、眼科なら、いや眼科だからあり得るかも)

最後のパーティーまで読んだ時、涙が溢れて来た。これは小さな幸せだと思う。だけどこんな幸せが欲しい。

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