
ようやくホッとする小説を読む。だけどそれがなんと町田そのこだなんて、笑える。いつもキツいなと思う小説ばかりの彼女に今回ばかりは救われる。
『スピカ』は厳しかった。長くて苦しい小説で読んでいる間の3日間は気持ちが重かった。だけど途中で投げださなかったし、耐えた。もちろん悪い小説じゃない。それどころか、とてもいい作品だと思う。ただ、重い。さまざまな病気を抱えた人たちの痛みと向き合う。主人公の看護師自身もそうで、みんなを支えるスピカひとりがポーカーフェイスで超然としている。彼に寄り添ってもらうことで、生きることが出来る。これもまた治療なのか。臨床犬って、そんな存在を初めて知る。
さて、『わたしの知る花』である。最初は快調だった。第1話の女子高生、安珠と怪しい老人平さんとの出会いの話だ。しかもいきなり平さんが死んでしまうし。お話は死んだ老人の過去を探る話へと進展していく。
一応1話完結連作スタイルを取り、各エピソードは独立している。ただそこには平さんの面影が色濃く反映されている。安珠も出てくるけど、1話以降は脇役に準ずるのが残念だ。
だが、4話から急展開する。安珠の祖母と平さんの関係がはっきりしてきて、最後の5話は祖母悦子の話になる。まぁわかっていたことだけど、70年に及ぶふたりの恋物語がそこで明らかになる。安珠のお話にもちゃんと決着がつく。
350ページになる長編はさまざまな人たちの視点からふたりの恋を語る。時間が前後するから少し混乱するところもあるけど、そんなジグザグ運転で、それが15歳の安珠の未来につながる。ひまわりの花束を抱えてやって来た老人と少女。70年の歳月を経て出会うふたりのドラマはこんなにも心に沁みる。