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映画・演劇のレビュー

『アバウト・レイ 16歳の決断』

2018-12-10 21:09:15 | 映画

 

ずっと男の子になりたかった。性同一性障害のひとりの女の子(エル・ファニング)が、本来の自分を取り戻すための戦い。自分が自分であるための戦い。そのためには、まず両親の承認が必要で、でも、親はそれを認めたくない。父の不在。母親と、祖母に育てられた。幸せだった。でも、自分はずっと男だと、思って生きてきた。だから、苦しかった。

 

映画は一切不要なものは描かないから92分というスリムな上映時間になる。スタートからいきなり核心に触れるし、そこからぶれない。男性ホルモンの投与を認める。これは16歳の子どもが、男として生きていく権利を手にするまでのドラマだ。

 

ラストで家族全員がそろうシーンは感動的だ。ほんとうの自分を認めた(自分自身ではなく、世間や周囲の家族が)とき、(彼だけではなく、みんなが)他人も認めることが出来るようになる。自分以外のすべては他人だから、家族も他人であり、それはそうなのだ。でも、家族はやっぱり家族なのだ、ただの他人ではない。そんな当たり前のことがこんなにもうれしい。

 

彼が自分を取り戻すため、悩み苦しみ、戦う姿がこんなにも感動的だ。そこから、母(ナオミ・ワァツ)が今まで隠してきたこともすべてが明るみに出る。母親の弱さが露呈する。この映画は母と彼のお話でもある。彼が自分を手にするまでのお話であるだけでなく、それが同時に、母親が自立するまでのドラマにもなるのだ。そして、彼は失っていた父親も取り戻す。同時に弟や妹たちまで付いてくる。

 

彼はひとりではない。自分が戦わなくては何も見えてこない、そんなことをしっかりと教えてくれる。これはそんな勇気ある戦いのドラマなのである。もちろん、これは彼の物語であるだけではなく、家族の物語であることは、語るまでもない。原題は「3 Generations」で、当然、祖母役のスーザン・サランドンも素晴らしい。

 


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