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映画・演劇のレビュー

『ハードコア』

2018-12-10 21:05:18 | 映画

 

こんなとんでもない映画が密かに公開されているのだ。しかも、見た目はお正月向けの大作SF冒険アクション映画か、と思わせる。だって劇場で宣材を見た時、ロボットが出てくるし、こんな映画だとは思いもしなかった。(原作のことはまるで知らなかった)

 

何の予備知識もなく、山下敦弘監督がとうとうSF大作に挑むのか、というノリで見たので、始まってしばらくして、えっ!、と思うことになる。なんなんだぁ、これは、と。低予算の貧乏くさい映画で、なんだか昔の山下映画を見ている気分にさせられる。『どんてん生活』とか、『バカの箱船』とか、最近でなら、『苦役列車』とか。

 

これはTVシリーズの『カンヌ映画祭』から派生した映画だった。『山田孝之3D』の続く山田、山下コンビの新作であり、到達点が、この世にも奇妙な映画だったのだ。彼ら2人に荒川良々が加わり、さらには、なぜか佐藤建までが参加した。佐藤と山田が兄弟を演じる映画なのだ。そこに、あのアナログでなんともチープなロボットなのである。ポスターを見た時には、これは『オズの魔法使い』かと思った。

 

想像を絶する映画だ。だけど、彼らが作りたかったのは、こういう映画だったのか、と納得した。もちろん、この映画をカンヌに出品するわけではない。そんな野望を抱いたのではなく、彼らが本気で作ろうとした自分たちにしか出来ない映画、それがこの作品なのだな、と思うのだ。とてもわがままで、ひとりよがり。まるで自主映画のノリ。メジャー大作映画なんかではないから、構わないのかもしれないけど、こんな映画を一応商業映画として撮らせてくれた角川映画は凄い。当然まるでお客は入らない。公開2週目なのに、1日2回上映なのに、週末の夜でもガラガラだった。仕方なかろう。

 

でも、彼らの想いはしっかりと伝わってくる。自分を曲げたくない。たとえ、それは正しいとか、間違いだ、とか、そんなこと関係なく、自分の気持ちを大切にする。それが暴力になってしまうこともあるが、構わない。無口な主人公の山田孝之演じる男の生き様から目が離せない。危なっかしくて見ていられない。そんな彼の不器用さがこの映画のすべてだ、と言っても過言ではない。

 

彼は、相棒の荒川良々を労る。そして正反対に見える生き方をする弟との兄弟愛。なぜかハイテクなブリキのロボットも一緒になって、平成の終わりを駆け抜けていく。ぶったまげのラストまで、わけのわからないルーズな展開で2時間4分。東京のかたすみで、最下層で生きる男たちの物語である。しかも、彼らは2時間の映画の中で、特別なことは何もしない。そんなことで映画が成立するのか、と叱られそうな映画である。最初にも書いたようにこれは実に「貧乏くさい映画」なのだ。凄い映画だった。

 


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