綿矢りさの新作は直前に読んでいた今村夏子の新作と同じで4話からなる短編集。どちらも、トータルなイメージがあり、その線に乗っ取った連作スタイルになっていた。同じテーマでの連作だ。綿矢りさの今回のテーマは周囲の人間からの無意識の悪意。言ってる本人には悪気はないし、悪意なんかない、かもしれない。でも受け取る側にはビンビン響いてくる。まぁ、そんなこと今さらなんだけど善意と(紙一重だと、)相手は思っていたりもしてなかなか複雑だ。いや、面白がっているだけだけど。だからこの1冊のタイトルにあるように「嫌いなら呼ぶなよ」ということになる。
整形、SNS,不倫、労害。4つのお話の扱った題材。会社で、バイト先で、友達との集まりで、メールのやり取りで。自分と他者との関係から生じる悪意。いずれのお話も共通している。相互の関係性が突き進むのは、拒絶だけではない。そこから新たなる関係が生まれることも。まぁ、ケースバイケース。さまざま。お互いのやり取りから、それがどこに向かうのかを見守ることになる。なかなかそれがスリリングだ。
1話目の『眼帯のミニーマウス』はどんでん返しがすがすがしい。2話目の『神田夕』は小さな事件の後味が悪い。でも、この対照的な2作が提示するものは同じことだ。3作目で全体のタイトルにも採用された『嫌いなら呼ぶなよ』はまさにそのタイトルそのまま。他人でしかない夫婦の不倫に横やりを入れてきて、正義を振りかざす。余計なお世話だ。ラストはおまけのようにさりげなくサービスもする『老は害で若も輩』。これだけ書下ろし。なんと傲慢な作家綿矢りさが登場する。楽しい。