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映画・演劇のレビュー

横関大『忍者に恋は難しい』

2022-07-28 11:38:45 | その他

この手の中間小説はめったに読まないのだけど、今回なんとなく、タイトルに惹かれて手にした。『ルパンの娘』の作家の作品だということは、読み始めてから気付いた。たしかにあのドラマ、映画のテイストに似ている。それとこれもTVなのだが『奥さまは取り扱い注意』にも似ている。そういえばあのドラマの映画版はひどい作品だった。せっかくの設定をまるで生かせないまま意味のないアクションや派手な設定でしょぼい映画もどきを提示しただけ。TVはそこそこ面白かったのにあきれた。あの映画と同じ轍をこの小説は踏みそうで、ドキドキしながら読み始めた。この小説が目指すべき地平は、あのドラマのさらなる進化系ではないか、と僕は思うのだが。まぁ、そんなのは勝手な思い込みでしかないけど。

でも、だからこそ、できることなら、この作品は「ふつうの夫婦が暮らす日々のスケッチ」であって欲しかったのだ。そんなそのふつうの夫婦が実はお互い忍者で、そのことを隠して暮らしている、という『奥さまは魔女』のような設定。いや、これはもっとすごい設定だ。お互いが秘密を持ち、そのお互いの秘密を知らない。夫は自分が伊賀忍者であることを隠したまま、彼女と結婚している。彼女もまた、自分が甲賀忍者であることを秘密にして暮らしている。そんなふたりのだましあいが日常生活の中で淡々と描かれていくサスペンス。何も起きないのに、毎日ドキドキの連続、なんていう小説ならいいのにな、と思いつつ、読み始めたのだが、やはりそういう期待はすぐに裏切られる。僕の勝手な思い込み通りのストーリー展開なんかするはずもない。とほほ。

いろんな意味でとても面白いお話(設定)だったはずなのになぁ、と残念に思う。でも、横関大は彼なりにとても頑張っている。ふたりの秘密がばれて一緒に逃げ出して真犯人を探し出すとかいうような定番展開になるのだが、でもそれはそれでそれなりにはハラハラドキドキのエンタメ小説で、最後まで飽きささない。

だいたい忍者が今の時代にいる、とかいう設定自体がアホらしく秀逸。だから、そこを現実の世界にいかに定着させるのかが作者の腕の見せ所。でも、それはそんなバカな、でいい。リアルはそこにはいらない。リアルが欲しいのはそこではなく、そんな不思議を受け入れて生きる日々のスケッチだ。でも、それはさっきも書いたように僕の求める小説で、横関大の世界ではない。結局は壮大なスケールの「スバイもの」みたいな小説になる。(忍者だけど)


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