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映画・演劇のレビュー

妄想プロデュース『chair~椅子でイーッス!~』

2011-12-12 23:00:17 | 演劇
 1年振りの妄想プロデュースである。なんともふざけたタイトルで、ちょっとした息抜き公演なのか、と思った。もちろん満を持しての超大作、というわけではない。なんと今回はカフェ公演(ジャン・トゥトゥクー ) なのである。

 だが、ちゃんと第7回本公演と銘打たれてある。こういうカフェ公演は実験公演だとか、番外公演だとか銘打ってなんか力を抜いた感じる劇団が多い中、彼らはちゃんと「本公演」と謳う。その姿勢は好きだ。でも、あのタイトルなんだ? と、いうことで、なんだかいろんな意味でアンバランスな感じ。さて、どんな芝居を見せてくれるのか、楽しみにしてジャン・トゥトゥクーへ。

 カフェで上演しているのに、いつもとまるで変わらない。音響も、照明もいつもと同じでちゃんとしている。舞台美術は作り込めないが、でも、このスペースで出来る範囲で本公演にふさわしいスケールをキープ出来ている。劇場を抑えての公演を避けたのは予算の問題なのか、諸事情はよくわらない。作、演出の池川さんに聞けば済むことだが、なんかそういう内部事情に立ち入るのは好きではない。そんなことより、まず、見た芝居を大切にしたいし、そこから感じられることを大事にしたい。

 今回初めて、彼はこの自分の作品にコメディーと銘打つ。そのことの方が気になった。シリアスなアングラ街道を邁進してきた彼がどういう心境の変化なのか。だが、見終えた印象では、まるでいつもと変わりない。どこがコメディーなのか、そちらの方が気になった。笑いをテーマになんかしてないし、殊更笑わせようとしているようにも見えない。要するにそれはアプローチとその姿勢の問題だったのだろう。のめり込むのではなく、素材と距離を取りたかったのではないか。いつもとちがって余裕がある。それに主人公たちを客観的に見ている。醒めた感じだ。「コメディー」という言い方の意味はここにある。今まで自分が作ってきた「熱いドラマ」とは一味違う。主人公の3人の女たちを均等に描いているのも、普段の彼とは違う。1年のインターバルを通して、ほんの少し違う自分を表現した。

 寂れて閉鎖された喫茶店を舞台にして、そこにいる2人の女たち。そこにふらりとやってきた女。この3人が主人公だ。店の中にテントを張り、そこで暮らす女。彼女は店の中で釣りをして過ごす。妄想の池に釣竿を垂れる。彼女は行方不明になったこの店のオーナーを捜している。そんな彼女と向き合うのは、父親が行方不明になって、しかたなくこの店を切り盛りしていた女。彼女たちのやりとりから話はスタートする。

 ここは大規模の再開発のため地上げされていて周囲の建物はみんな取り壊されている。彼女たちだけが居座っている。いなくなった父親の帰りを待っている。そこに客としてやってきた女。さらには旅先でこの家に父親から手紙を受け取った男や、白鳥の化身の男とか、がやってくる。もちろん地上げ業者の男もくる。彼らが繰り広げるドタバタ騒ぎが描かれるのだが、細かいことはどうでもいい。

 池川さんの中にある戸惑いや、迷いが芝居によく出ている。今までとは違うものをみせたいと思う。これは、どこかのコピーではない自分オリジナルの世界を見せたいという彼の気持ちが前面に出た芝居なのだ。椅子をドラマの中心に据えて、世界が椅子の上で座ったまま見ることが出来る時代に、敢えてそこから立ち上がり歩き出すこと、でも、敢えてここに留まること。そこにどんな意味があるのかが描かれる。結構様々な問題を孕み持つが、全体のタッチは軽やかだ。そこが魅力でもあるが、物足りない部分でもある。今回のチャレンジが次回で結実することを期待したい。

 

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