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映画・演劇のレビュー

川上未映子『乳と卵』

2011-06-05 22:17:04 | その他
ようやくこの3年前の芥川賞受賞作を読めた。先日彼女の新作『発光地帯』を読みながら、そう言えば、彼女の『乳と卵』を読んでないよな、と再確認し、ブームも去った今なら、すぐに貸し出し可能だろうと思い、借りてきた。相変わらずの川上節で、これはこれで読みやすいし、おもしろかった。

 東京で一人暮らしをする女のところに姉とその娘がやってくる。姉は豊胸手術をするために東京までやってきたのだ。彼女がなぜそこまでして、美しい胸に拘るのか、妹である主人公にも、まだ幼い娘にも、わからない。もう40代になろうとする一人身の女が、そんなことに拘る訳がわからない、と周囲は思う。しかも、恋人がいて、彼が貧乳はいやだ、とか言っているとか、いうわけでもない。彼女には今、男はいない。あくまでも自分一人の問題みたいなのだ。

 そんな彼女たちと過ごす1週間ほどの時間がこの小説の中では描かれる。この姉のまだ、幼い娘は、全くしゃべらない。無口とかいうのではなく、わざと、発語しないのだ。しゃべれないのか、しゃべらないのか、それすらわからない。母親への抵抗なのかもしれないが。だが、完全に世間を拒絶しているのではない。筆談でちゃんとコミュニケーションをとる。

 こんな2人を迎えて過ごす時間は、ことさら特別な出来事もなく、普段の延長線上の日常でしかない。彼女自体がこの2人によって変わっていく、とかいうよくあるパターンは踏まない。ただなんとなく、時は過ぎていき、それだけだ。だいたい姉はあれだけ大騒ぎしたのに、手術を受けることもなく、大阪に帰ってしまう。帰る直前に、別れた旦那と会ってきたようだが、それが影響しているのか、どうかもわからない。

 この小説のなんともだるい感じが、なんかいい。これが川上未映子の小説の特徴だ。同時収録された短編『あなたたちの恋愛は瀕死』もこのつかみどころのなさが、いい。ゆきずりの男と、関係を持つことを、夢想する女の独白だ。町でティッシュを配る男と、どうにかなることを考える。その妄想とも、現実ともいえないような、時間がそこには綴られる。こちらも実に面白い。




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