敢えて大谷高校という表記はしない。なぜならこれは中学生が補助ではなく、確実に大事なポジションを担っているからだ。まのせい役のふたりのダンサーが中学生だなんて、ビックリ仰天だ。彼女たちのパフォーマンスの完成度の高さが作品自体のレベルを確実に高める。主人公たちの体を張ったパフォーマンスとの対比が鮮やか。簡素そうに見えて実は見事に考えられた舞台美術。あきれるほどに早いテンポの展開。オペラ『魔笛』を下敷きにしたオリジナル脚本の妙。1時間強という時間に詰め込まれた圧倒的な情報量。それを悠々たるタッチで見せていく余裕と自信。感動した。
開演前15分に入場したがもう満席状態の客席。今か今かと待ち望む観客。きっと開場と同時に始まった映像では、演劇部の面々がこの芝居とかかわる姿が描かれているようだ。開場から遅れて入ったからそれまでどんな話がこの映画で語られていたか、そこで何が描かれたのか、僕には残念だがわからないけど、この映像作品の完成度が高いということは伝わる。ちゃんと見たかったのだけど、たまたま隣に座っていたのが友人で、ついついおしゃべりをしていたので、ほとんど見ていないけど、かなりの観客が熱心に見守る。確かにおもしろい(ようだ)。チラチラ見ると、演じる面々の姿はが生き生きしているし、芝居もうまい。編集もテンポよく、音入れもちゃんとなされた映像作品だ。というか、ちょっとした短編映画。しかも20分以上の。こういうものを演劇部がちゃんと作るんだな、と感心した。おもてなしは見事。これから始まる芝居への期待は高まる。そして、芝居は始まる。
昨年の大谷高校は見ているし、これまでも何度も見ている。免疫はできているはずなのだ。凄いということはもう重々わかったうえでの鑑賞なのだ。なのに、その遥か先を行く衝撃だった。もうこれは高校生の芝居ではない。第1級の商業演劇作品だと言っても過言ではない。これを中学生と高校生によるチームが軽々(そういうふうに見える!)と作り上げる。なんてエレガントで、洗練された表現。おしゃれで、でも汗まみれで、すがすがしい。
冒頭から全力疾走だ。森に入った3人の子供たちの冒険が早いテンポで描かれる。これは主人公の鹿毛野が担任に課せられた反省文の代わりに提出した芝居の台本。だからこれは劇中劇だ。3人組のひとりが彼女で、とんでもなくテンションの高い友人ふたり(たみよとみなこ)に導かれて、禁を犯して山神がいるというこの森の深いところへと迷い込んでしまったのだ。お話はここから始まる。
怒濤の展開である。でも、あらすじは省略。ここには圧巻だった部分について書く。もう信じられない! あの【夜の女王】(東こはく嬢が演じる。この人は現役のモデルなのか?)の登場だ。なんなんだあれは、と驚いた。1メートル80センチはありそうな長身を贅を凝らした真っ黒なドレスに身を包んで登場した時には、震えた。この違和感。場違いな存在。その異世界感。美しい彼女が堂々と「クソ」言葉を連発する。世界が変わる瞬間を目撃した。それは途中で挿入される(お約束となった)オパンポン創造社の怪優、野村有志のパフォーマンスすら霞む勢いだ。
さらなる衝撃はあのラスト。どこにオチをつけるのか、とワクワクしていたら、なんと主人公を虐待していた母親すら許すなんていうまさかの展開に。それは安易な結末ではなく、ある意味恐ろしい。でも、勧善懲悪ではなく、自分のなかで、どこに意味を見出し、どう未来と向き合うのかのひとつの選択として、それはそれで納得がいく。笑わせるだけではなく、深く考えさせられる。もちろん、台本と演出が見事だから、エンタメ作品としても圧倒される。おそるべき集団だ。