習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

劇団未来『切り子たちの秋』

2012-11-12 20:38:46 | 演劇
 劇団創立50周年記念作品の第2弾となる作品なのだが、気合を入れまくった前作とは違う。今回は等身大の作品だ。そして、いつものアトリエでの公演となる。もちろん大作だった前作も素敵な作品だったが、どちらかと、言われると今回のような小さな作品のほうが僕は好きだ。先日久しぶりに見た浦山桐郎監督63年作品『キューポラのある街』を彷彿させる。でも、あれよりももっと小さな話だ。

 町工場の家族と、その周辺の人たちのお話である。1974年、東大阪が舞台となる。小さな工場を細々と営む。だが、石油ショック後の不況のあおりを食らって仕事がなかなか入らず青息吐息の状況にある。今、社長をしているのは40代の次女、幸子(前田都貴子)で、引退した母親と20歳の娘、従業員はパートのおばちゃんを入れて2名。工場の事務室とその横の居間が舞台となる。

 ささやかなお話である。でも、そこには切実な現実が描かれる。だが、そんななかで彼らが精一杯に生きる姿が誠実に描かれてある。この芝居のよさはそこにある。作り手と、役者たちの誠実な姿勢が芝居からしっかりと伝わってくるから見ていて心地よい。このドラマの住人たちに拍手を送りたくなる。

 弱者は時代の流れに流され、やがて消えていくしかない。だが、それでも最後まで自分たちの思う通りに生きようとする。そんな姿が愛おしい。上から目線の芝居ではない。彼らとしっかり寄り添う。どうしようもない現実の中で、必死になって生きようとする姿が、胸に迫ってくる。

 ラストの幸子の決断が、不器用だけど、素敵だと思う。もっと時代に寄り添い上手く生きてもいいのに、彼女にはそれが出来ない。「みんなが幸せになるためには、自分の幸せは一番あとでいい」という彼女の生きざまが嘘くさくなく、伝わるのがすばらしい。なんだかそれって、良い子ぶっていて、リアルじゃないと、言われそうなところだが、そうはならない。まだ若い前田さんの演技が、凛とした幸子の生き方に説得力を与えたのだろう。実年齢よりずっと年上を演じて、無理がなかったのは、幸子と言う女性が生き生きしていたからだろう。まだ、埋もれていくことなく人生を謳歌して欲しいと願う母親に対して、ここでこうして油にまみれて生きることこそが、生き甲斐なのだと胸を張れること、それって凄い。もちろん胸を張るというのは、言葉の綾だ。彼女がそんなことを言うシーンはない。でも、その想いはちゃんと伝わってくる。彼女は『キューポラのある街』のジュンと同じように、顔をあげて、前を向いて、生きる。なんだか元気になれる。そんな作品だった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『カエル少年失踪殺人事件』 | トップ | がっかりアバター『啓蒙の果... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。