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映画・演劇のレビュー

島田雅彦『カオスの娘』

2007-07-30 07:50:24 | その他
 「精霊のささやきを聴く少年と破滅に憑かれた謎の美少女、2人が夢で出会うとき、希望と絶望のロンドが響き渡る」

 この絶妙で、安っぽいキャッチコピーが取敢えず、この小説の本質を見事に表現している。ここまでエンタメではないのだけれども、島田雅彦はとても読みやすくて、ドキドキさせられる作品を軽やかに書き上げた。

 ナルヒコとマリコの2人の話を交互に描き、後半はそれが一つになっていく、というよくある構成も、この作品にぴたりと嵌っている。シャーマンになるべく生まれてきた少年が修行のため北のオホーツクに向かい、2年間監禁され調教されてきた少女は魔王子と自ら呼ぶ変態男を殺し、身一つで東京に戻り、喪った記憶を捜す。

 この2人の冒険がアップテンポで描かれ、さらには生きることに何の希望も見出せなくっていたサナダ先生を巻き込み、ラストのテロへと一気に突き進んでいく。

 全体は幼い2人のラブ・ストーリーにもなっており、ラストの別れはとても切ない。心を失い、体をボロボロにされてしまった少女が、再び自分を取り戻す旅が、さらなる悲劇を生んでいく。彼女の物語に主人公であるシャーマン探偵ナルコ(ナルヒコ)誕生秘話が絡めて描かれる。

 島田雅彦はこれを皮切りにナルコシリーズを書くつもりらしい。単純なエンタメのフリをしながら当然それだけに止まらない。第2弾が楽しみだ。

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