シノーポリ/ドレスデン・シュターツカペレ「ヴェーベルン管弦楽曲集」


 新幹線の中で「吉田秀和全集23」をじっくりと読みました。朝日新聞やレコード芸術での連載をまとめた今のところ氏の最後の著書です。随分前から最近新聞に吉田氏のコラムが載らなくなったなあと思っていたのですが、夫人を亡くされてから休止していたんですね。
 吉田氏の著書では新潮文庫の「世界の指揮者」をフルトヴェングラーやクレンペラーなど往年の名指揮者にのめり込む度にその章を読み返していました。実際に演奏会を体験した者にしか分からない印象、指揮者の生の姿の描写にまずは羨ましさを覚えましたが、他では読めない説得力がありました。特にべームやマゼールなどどう捉えてよいか分からない指揮者の章が面白かったことを覚えています。
 朝日新聞連載のコラムも以前は、「~かしら」という上品な言い回しや新人や日本人奏者に対する「~という人」という表現に違和感を感じていたのですが、いつからか氏の自由で爽やかな文章に魅了されるようになりました。

 取り上げられているディスク、コンサートに魅力的なものが少ないのは世の趨勢でありいたし方ありませんが、音楽だけに捉われない(それでも一流はクラシック音楽に関する文章ですが)円熟の吉田節に溢れています。老いてなお若々しいというと褒めすぎでしょうか。

 内容は必ずしも推薦盤紹介ものではありませんが、この手の著書の出来がよいかどうかはやはり読んで実際にそのディスクを買いたくなるかどうかだと思います。
 今回無性に聴きたくなったのは、ヴェーベルンです。2~3回取り上げられていて、「あの長い辛い夏の間-何度くり返しきいたことか。強い緊張を胚んだ静けさの中で、ごく少しの音から聞こえてくる清らかなメッセージ。」と書かれると聴かざるを得ません。

 私が聴いたことがあるヨーロッパ系の現代音楽でメロディを覚えているのはグールドの「新ウィーン学派のピアノ曲」とベルクのオペラ「ヴォツエック」くらいだと思います。グレの歌、浄夜、トゥーランガリア交響曲など現代音楽のディスクは複数枚持っているので聴いたことはあると思うのですがどういう音楽かは覚えていません。ヴェーベルンは間違いなく聴いたことはありません。

 とてもいいです。吉田氏の文章に洗脳されたのもあると思いますが、爽やかで脳に染み入る癒しの音楽というのでしょうか。予想外に聴き易い音楽です。難しい音楽技法については不知ですが、今の私には意味の分からない現代音楽というよりロマンティックで内容のある音楽に聞こえます。何がどういいのか上手く言い表すことが出来ないのでこれ以上については現時点では省略させていただきます。

 吉田氏が推薦している3枚、カラヤン盤、ブーレーズ盤、シノーポリ盤に、夏風の中でが入っているベルティーニのディスクを聴きました。
 シノーポリ盤がよく聞こえます。「夏風の中で」、「パッサカリア」、「管弦楽のための6つの小品」、「管弦楽のための5つの小品」、「交響曲」、「協奏曲」、「変奏曲」と有名曲が収められています。ブーレーズ盤は玄人向けなのでしょうか演奏が客観的で素人には曲の魅力がすぐには伝わってこない、カラヤン盤は若干表現がゴージャスすぎるのと「夏風の中で」が入っていない点で若干問題があるように思えました。
 ヴェーベルンを知り新しい発見、感動がありました。もう少し現代音楽の世界を体験してみたいと思いました。


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