リヒテル「ドビュッシー 版画」


 精神的に疲れていると骨格のがっちりした音楽、厚みのある音楽では満腹感があります。音楽など聴かずに読書したり、軽く運動するのがよいのでしょうがぼぉーとしたい時のBGMとして適しているのがドビュッシーのピアノ音楽です。

 版画は、「塔」、「グラナダの夕暮れ」、「雨の庭」の3曲からなる15分程度の小曲集です。前奏曲集と似た印象ですが、より叙情的、瞑想的なところがあるので癒しの音楽なんでしょうか。

 リヒテルによるライブ演奏です。瑞々しいタッチから描き出される音楽は表題どおり絵のイメージがふわっと広がるようです。強奏でも決してうるさくありません。ドビュッシー演奏は靄がかかっていてもクリアすぎても違和感がありますがリヒテルは最高の美音でこの世界を見事に描写しています。
 リヒテルによる版画を聴いたきっかけは、村上春樹のエッセイか何かで力が抜けるようなリラックス効果がある(?)と勧めてあったので探したものだと思います。リヒテルはこの曲を得意にしていたようでご紹介する1962年のローマでのライブ演奏の他に1977年のザルツブルグ音楽祭のライブがあります。おそらくもっとあるのだと思います。

 リヒテルは晩年の来日コンサートがパッとしなかったようで日本ではあまり評価されていないようですが、1958年のソフィアでの展覧会の絵、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番などでの力強さ、ド迫力は他のピアニストからは決して聴かれないものです。一方で、バッハの平均律やドビューシーでの繊細な美音は同じピアニストとは思えません。

 このライブ録音が当初どういうディスクで発売されたのかは分かりませんが、私が聴いているのは「イン・メモリアル1959-65」という企画ディスクに収められているものです。版画の他に、バッハ、ハイドン、ショパン、シューベルトなどがライブを中心に収録されていますが、全盛期のリヒテルの叙情的な面を満喫することができます。特にこのディスクの大半を占める1962年11月のローマでのライブ演奏が素晴らしいです。バッハ平均律、ショパン幻想ポロネーズは既出盤も傑作揃いですがここでの演奏も絶品です。



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バレンボイム/ロンドンフィル「ブラームス ドイツ・レクイエム」


 あまりにも美しい音楽、美しいコーラス。これほど声楽(特にコーラス)とオーケストラとが一体となっている美しい音楽もそうないのではないでしょうか。
 ブラームスの曲は全て素晴らしいです。交響曲、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、ピアノ曲などなど。真面目なロマンティストの作り出す音楽はクラシック音楽ファンであれば誰もが愛するのでしょう。ドイツ・レクイエムも格別です。
 声楽曲、レクイエムは数多ありますが、祈りの気持ちをここまで自然に音楽に昇華させた音楽はこの曲以外にないように思います。伝統的なラテン語、ミサの礼文ではなくブラームスが聖書のドイツ語訳から好きな文言を選んでそれに音楽を付けた曲なんだそうです。確かに他のレクイエムとは形式、雰囲気が違います。

 曲がよいので、はっきり言ってどの演奏も素晴らしいです。気持ちよく聴けます。カラヤン、クレンペラー、クーベリック、バレンボイム、ハイティンク、ブロムシュテット、ヘレヴェッヘなど。購入したディスクの中に転居の際に不燃物として紐に括られることになるディスクはありません。オーケストラの良し悪しもこの曲ではあまり気になりません。録音で聴く限りコーラスもあまり違いはないように思います。どの指揮者も全力投球したのでしょうか。
 印象の違いはスピードの違いだと思います。第1楽章9分56秒のクレンペラーから12分24秒のバレンボイム新盤まで。
 その中でどれがよいか。よく分かりません。どれも良いのと抜きん出ているディスクはないように思います。そこで現在の私のお好み盤です。
 バレンボイムの旧盤、ロンドンフィルハーモニックとの演奏です。バリトンはフィッシャー・ディースカウ、ソプラノはマティス。テンポは遅いのですが、たっぷりと歌って真摯な音楽が伝わってきます。迫力のコーラス、地響きするティンパニ、エレガントなオーボエ。シカゴSOとの新盤も同じ傾向でよいのですが、若干遅すぎてナヨナヨするところがあるように思います。

 いずれにしても本当に美しくて素晴らしい楽曲です。残念ながらまだ実演で聴いたことがないので是非一度体験したいと思っています。




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