古タイヤの中に溜まった水にあんよが浸かってしまった、困ったコブちゃん。
どうしてもここから動けないでいる。
母ちゃんのところへ行きたいのに。
シマコはどこを向いてるやら。
若布ちゃんが心配している。
しばらくしてやっとシマコはコブちゃんの声のする方へ身を乗り出した。
子育て中、すぐには手を出さないのか?
ある日のこと、地下鉄へ降りる階段に幼い泣き声が響きわたっていた。
降りていくと小さい子の手をひいたお母さんと同じくらいの子を抱き抱えたお母さん二人。
泣いているのは手をひかれた子の方でよく聞いてみると泣き声の合間に、「だっこ~、
だっこ~、だっこしてよ~」と言っている。
そんなに声をはりあげると喉が痛くなるよ、とそばに言って慰めてあげたいくらい
悲痛な必死な声で訴えている。
通り道なのでしだいにギャラリーも増えたが、とうとう地団駄踏みだしてついに座り込んでしまった。
するとおかあさんはつないだ手を離すと先へ歩きだした。振り返らない。
子どもの声は大きくなる一方で、何事かと行き交う人がみな子どもをのぞきむ。
周囲に親はいないのかと見渡す人もいる。交互に見て、そしてそばを離れていく。
かくいうわたしも近くで立ち止まったままでいた。
子どもは泣き止まない。ストライキ‥か。
それとも‥‥。
こういうとき、いったいどうしたらいいんだろうなあと考えてしまった。
それに手を離したとき、母親は何を思っていたのだろう。
あの声を聞きながら、どうしたかったのだろう。
しばらく下を見てコブに呼びかけていたシマコは、急に壁づたいにタイヤの上へ降りようと
動き出した。そしてコブへ手をさしのべている。
ミャゴミャゴ、コッチだ、ミャ~ゴ、さあおいで。
「仁なくして育めず」
「義なくして極まらず」
小さい子に出会うと、じっと見てしまう。
そして、その子の顔が曇っていると、ちょっと胸が騒ぐ感じ。
おろおろ、する感じ。
ほんとのベイビーだった頃も今も、親分はベイビーである。
駄々をこねないのでいい子である。
でも、まだ言葉が通じなかった頃、わたしは我慢した。
我慢して、吠えて地団駄踏むベイビーの前にじっと座っていた。
そのうちベイビーはギャンギャン吠えるのを止め、わたしの顔をペロリと舐め
体をすり寄せてきた。
そんなことが何度も何度も繰り返されたのだが、今、目の前で訳知りな顔をして
わたしを見ている親分、いやベイビー。もう駄々もこねてくれない。
じっと見られると、説教されている気分である。
どうしてもここから動けないでいる。
母ちゃんのところへ行きたいのに。
シマコはどこを向いてるやら。
若布ちゃんが心配している。
しばらくしてやっとシマコはコブちゃんの声のする方へ身を乗り出した。
子育て中、すぐには手を出さないのか?
ある日のこと、地下鉄へ降りる階段に幼い泣き声が響きわたっていた。
降りていくと小さい子の手をひいたお母さんと同じくらいの子を抱き抱えたお母さん二人。
泣いているのは手をひかれた子の方でよく聞いてみると泣き声の合間に、「だっこ~、
だっこ~、だっこしてよ~」と言っている。
そんなに声をはりあげると喉が痛くなるよ、とそばに言って慰めてあげたいくらい
悲痛な必死な声で訴えている。
通り道なのでしだいにギャラリーも増えたが、とうとう地団駄踏みだしてついに座り込んでしまった。
するとおかあさんはつないだ手を離すと先へ歩きだした。振り返らない。
子どもの声は大きくなる一方で、何事かと行き交う人がみな子どもをのぞきむ。
周囲に親はいないのかと見渡す人もいる。交互に見て、そしてそばを離れていく。
かくいうわたしも近くで立ち止まったままでいた。
子どもは泣き止まない。ストライキ‥か。
それとも‥‥。
こういうとき、いったいどうしたらいいんだろうなあと考えてしまった。
それに手を離したとき、母親は何を思っていたのだろう。
あの声を聞きながら、どうしたかったのだろう。
しばらく下を見てコブに呼びかけていたシマコは、急に壁づたいにタイヤの上へ降りようと
動き出した。そしてコブへ手をさしのべている。
ミャゴミャゴ、コッチだ、ミャ~ゴ、さあおいで。
「仁なくして育めず」
「義なくして極まらず」
小さい子に出会うと、じっと見てしまう。
そして、その子の顔が曇っていると、ちょっと胸が騒ぐ感じ。
おろおろ、する感じ。
ほんとのベイビーだった頃も今も、親分はベイビーである。
駄々をこねないのでいい子である。
でも、まだ言葉が通じなかった頃、わたしは我慢した。
我慢して、吠えて地団駄踏むベイビーの前にじっと座っていた。
そのうちベイビーはギャンギャン吠えるのを止め、わたしの顔をペロリと舐め
体をすり寄せてきた。
そんなことが何度も何度も繰り返されたのだが、今、目の前で訳知りな顔をして
わたしを見ている親分、いやベイビー。もう駄々もこねてくれない。
じっと見られると、説教されている気分である。