新品のCDラジカセでCDを聴いて、コンパクトさ、簡便さを享受していると、ふとした瞬間に時代の重みを感じることがあります。
月河の小・中学生時代、“物質的な豊かさ”を象徴するアイテム、「アレが買えたら、ウチに常時ある状態になったら、どんなに幸せだろう」と夢見るアイテムの第一項目は、外車でもブランドロゴのハンドバッグでもなく、“ステレオ”でした。
クラシックや洋楽を“いい音”で聴けるステレオ。つまりはアナログレコードプレイヤーとアンプとでっかいスピーカーの集合体。
80年代初頭、学校を卒業して社会人になりたてでまだクレジットカードもなく、電器店で24ヶ月ローンを組んで初めてサンスイのステレオコンポを注文、日曜日に自宅に届いて、この日のために買ったカール・ベーム指揮モーツァルト『戴冠式』に針を落としたときには「生まれてきてよかった」という実感がしたものです。
しかし、気がつけば生活の中で“迫力ヴォリュームのある音響”に憧れる要素はきわめて希薄になっています。
そもそも、広くもない私室でひとり、それも台所仕事その他もろもろが片付いた完璧プライベートの夜間・深夜のみにヘッドホンで聴くために求められるのは“迫力”より“コンパクト”。
浮き世の身過ぎ世過ぎで、在宅で音楽のために割ける時間が減ったということもありますが、プライベート、気晴らしの中に占める“音楽”の重みは本当に軽くなった。
アナログLPレコードから、CDアルバムサイズへの“嵩張り具合”の移行が象徴していたと思います。
80年代初頭当時、LPを1枚買ったら、持ったまま帰途生鮮食料品の仕込みやバーゲン会場などにはとても寄れなかった。嵩、サイズウンヌンより、「大切な、貴重なモノだから折ったり割ったり傷めたら大変」という“有り難味”が違ったのです。
CDアルバムなら、角張ったケースにがっちり保護されているし、それこそROOTOTE(ルートート)のカンガルーポケットに挿し込んで、外回りのひと仕事もできます。
音楽もパッケージ商品をストックして持つより、聴きたいときに聴きたい曲のみを“ダウンロード”する時代に。
月河はまだニーズもないし、恩恵にも浴していませんが、“自宅で腰据えてじっくり”よりは“いま居る時、居る場所で思いつきで”のほうが「音楽欲しい」頻度が高いし、そういうニーズをその場その時に満たせるほうが“贅沢度”“先進度”も高い、そういう世の中になってきたのだと思います。
横幅40センチ、高さ10数センチ、奥行き20余センチ。このサイズでも私室なら十分な音響を得ることが可能になった技術の進歩に嘆息するとともに、いまの自分にとって“音楽”が提供してくれる“贅沢感”の比重は、この程度まで低下したのだな…と思うと、なにやらむなしい感もある。
一方で、音響の大型さ・嵩張り度イコール“贅沢”“リッチ”と無条件に信じることができ、憧れることができた時代が懐かしくもあります。
『金色の翼』第57話。
今日のセツ(剣幸さん)の槙(高杉瑞穂さん)への告白を額面通り、回想シーンの描写通りに受け止めれば、槙兄=檀は、5年前にホテル改装作業員にまぎれて潜入、弟の槙に手にかけた恋人のロケットを託して「確かめたいことがある」と姿を消した後、セツに「あんたのご主人(=槙兄弟の父の雇い主・故・行永慶介氏)が自分と彼女の仲を裂いた」と疑念を一方的にぶつけ、「それは誤解よ」と弁明するセツの言葉に耳を貸すことなく、あてつけ的に自殺をはかり、止めようとしたセツともみ合ううちに偶発的に事故死したことになります。
倒れて動かなくなった檀を目の前にして、警察にも救急にも通報しなかったセツには、夫が自分の子供のように可愛がり、養子にしたいとまで言っていた兄弟のひとり=檀の命よりも、その夫の死後唯一残された遺産である島と島の別荘を改築したホテル開業のほうが大切だったということか。
その時点で、体面を気にせず通報していれば、万に一つ檀は息を吹き返した可能性もある。セツにとって“悪魔に魂を売り渡してでも守りたいもの”とは、病に倒れ一族から資産をむしり取られながら不遇のうちに愛する島と海の風景を眺めつつ没した夫の思い出だったのでしょう。
修子(国分佐智子さん)に遺影の裏に隠していたロケットを見つけられ、もはやこれまでと覚悟し奥寺(黒田アーサーさん)に島を売却する決心も固めたセツ、唯一「取り壊さないことが条件」と執着する鳥のアトリエに、もうひと声何か隠されていそう。
それより今日は絹子刑事(高嶺ふぶきさん)が槙の部屋に押しかけたシーンで、重大なサジェストがありました。ブラジルの雑誌に掲載されていた故・日ノ原氏の自家用飛行機コレクション。事故に遭い四散したのは、尾翼のロゴが1話以降何度も出た爆発CGと一致する“白い翼を広げた姿が優雅な、空飛ぶロールスロイス”。
しかし、29話で修子は槙に「離婚して欲しいともう一度話し合おうと、車を駆って森を抜け夫の滑走路に行くと、夫の姿はまだなく最新の自家用機が“銀色の翼”を広げていた」「気がつくと工具を取り出しエンジンに細工をしていた」と打ち明けています。
絹子刑事は「こっちのシルバーのが最新式だけれど、日ノ原氏は操縦する機会がないまま死んだ」と言いました。
修子が滑走路で見つけ、細工して、「墜落させた」と思っている(あるいは槙に言っているだけ?)のはたぶん後者。
十中八九、修子は、日ノ原氏を殺してはいないのです。
修子が秘めるもうひとつ(まだまだ他にもあるけど)の謎=迫田が触れて感じた太腿の違和感とあわせて、結末の鍵を握りそうです。
そんな中、修子の「私がオーナーに、死んでいるあなたのお兄さんに罪をかぶってもらうように頼んだ」とのいきなりニセ告白に「オレはこれまで女に手をあげたことはないがオマエは別だ!」と逆上してる槙のおバカなこと。
32話で思いっきり修子に組みついてた(途中、畳の目にスベってこけそうになってた)じゃないか。アレは最終的に百合まみれで真っ裸抱擁に行き着いたから、槙の中では“女に手をあげた”に数えられてないのかな。
昼ドラ定番の、強烈ヒロインに対する“間抜け王子さま”におさまりつつある槙。このドラマは対立抗争の図が成立してこそのラブメロなんだから、も少ししっかりせいよ。