ジプシーの女
17世紀のオランダの画家フランツ・ハルスは、まるでスナップ写真のごとくに人の素を切り撮る。
そこには、体裁を繕っている間など無い。
あたかも街角の似顔絵描きみたいに一気呵成に絵を描ききったかのような、迷いのない筆捌きが、雄弁に物語っているのだ。
その当時、彼のような画家は少なかったのではないだろうか。
肖像画といえば、地位も名誉もある一部の特権階級のもので、道化師はともかくもジプシーの女の人が、単独で描かれることはまず無かった。
しかし、ハルスは、あえて市井の人にもスポットライトを当てた。
彼の画業で、ほぼ人物画しか描かなかった彼は、おそらく人間が一番興味惹かれるものだったのではないか。
一個の人間のかなに善も悪も複雑に入り乱れ同居する、複雑怪奇なこの生き物に、心底魅入られていたのだろう。
あまりに人間くさい彼の作品は、至高の美とは言い難いかもしれないけれど、普遍的な人間の本質を宿していて、魅力的なのだと思っている。
リュートを弾く道化師