大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい 番外・005『お見合い写真はブラックスワン』

2024-12-19 15:51:53 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
番外
005『お見合い写真はブラックスワン』さくら 




 ブラックスワンて知ってますぅ?


 あり得へんことが起こった時に使う、ちょっと高度な慣用句。

 似たような言葉に『青天の霹靂』っちゅうのがあるけど、微妙に意味がちがう。青天の霹靂は、ただビックリするだけやけど、ブラックスワンは、ビックリして、悪いことが起こるんやったと思う。

 我が如来寺に、そのブラックスワンが、まずは青天の霹靂でリビングのテーブルの上に現れた!

「え、これって……」

 まず、留美ちゃんが凍り付いた。

「ま、まさか!」

 その時、頭に浮かんだんは青天の霹靂。

「ちょ、ちょっと!」

 姉妹同然の親友が止める間もなく、うちは青天の霹靂を手に取った。

 青天の霹靂は、白いB4サイズの厚紙に綴じられたお見合い写真!

 開くと、ベールみたいな薄紙が付いてて、その下に和装のベッピンさん。

 薄紙の為に、フワっと滲むというかボケてんねんけど、メッチャ美人!

「あ、ダメだよ」

 薄紙をめくろうとするうちを止める留美ちゃんについさっきの勢いは無い。

 留美ちゃんも見たいんや(^_^;)

 
 神に誓って、いや、うちは真宗のお寺やさかいに、阿弥陀さんに誓ってわざとやない!

 一陣のそよ風(たぶんエアコン)が吹いて来て、薄紙をめくってしまいよった!

「「おお!」」

 現役高校生やけど、いちおう女優と声優の二人は、アニメの主人公が冒険の旅の末の最終回。女神さまに出会った時みたいな声をあげてしもた!

 いや、ほんまに女神さまっちゅう感じ!

 なんと巫女服!

 巫女服て、もう和装の極みやんか! 

 斜め後ろに狛犬を従えて、その後ろには賽銭箱とガラガラの鈴。その上には拝殿の唐破風の裏側が、竜の顎みたいに見えてて、境内の玉砂利がレフ板みたいな働きをして、うりざね顔も麗しく栄える。

 若手女優のプロモ写真みたい。

 うちの宣材写真に比べても軽く10ポイントは上をいってる!

「巫女さんなんだろうか……」

「せやろなあ、この着こなしはレイヤーさんとはちゃうで」

「あ……」

 写真の後ろにはもう一ページあって、白い封筒が頭を見せてる。

「釣書だよ、これ」

「ツリショ?」

「うん、見合いの前に相手に渡す履歴書みたいなもんだよ」

「え、なんか露骨な名称やなあ」

「あ、違うんだよ。釣書っていうのは、掛け軸の別名。ほら、掛け軸って床の間とかに釣るすじゃない。昔は家系図とかも掛け軸の形してて、お見合いの時の身上書みたいなのも釣書って言うようになったんだよ」

「よう知ってんねえ( ゚Д゚)」

「あ、ドラマに出てきたから(^_^;)」

 ドラマとは、留美ちゃんの場合『観たドラマ』じゃなくて『出演したドラマ』やから、すごい。

「封ぅしたぁれへんわ、見たろかぁ( ≖ᴗ≖) !」

「あ、ダメだよ!」

 さすがに選挙権さへ持ってる高3コンビ、中坊の時みたいなアホはやりません。

「せやなあ、早々に送り返さなあかんもんやろしなあ……しかし、今までで一番のベッピンさんやなあ」

 うちの正直な感想には応えんと、留美ちゃんは別の角度から心配する。

「これで、三回目?」

「いや、五回目」

「え、もうそんなに!?」

「まあ、やっと30、そう焦ることもないやろし」

「そ、そうね(^_^;)」


 それから、留美ちゃんはテレビのワイドショーのお仕事。

 うちは、お祖父ちゃんの白内障手術の付き添いで、堺で一番の総合病院へ。


「お祖父ちゃん、ビビってる?」

 白内障の手術は目ぇの中の水晶体が濁ってしまうんで、人口の水晶体と入れ替える手術。

 まあ、70歳を超えると誰でも出てくる眼病で、盲腸の手術よりも簡単らしい。けど、目ぇのレンズを入れ替えるんやから、怖いに違いない。

 せやさかい、かっこうのネタ。待ち時間にお祖父ちゃんを脅かす。

「ああ、目ぇやからなあ」

「せやろなあ、針とかメスとか、目ぇに迫って来るのん見えるやろしなあ(^△^;)」

「あ、それは麻酔とかかかってるさかい、なんも見えへんらしいわ」

「え、せやのん?」

「うん。たいてい上手いこといって、手術前よりもよう見えるらしい」

「ええ、科学の進歩やなあ」

「うん、檀家さんでも何人もやってはるしなあ」

 せや、檀家の大方は医療費二割負担で済む年寄りやった。

「せやけど、左の方は網膜穿孔もやってるさかいなあ」

「え、モウマクセンコウ!?」

 これは聞くのん初めてや。

「うん、網膜に亀裂やら穴が開いててな、めちゃくちゃ見えにくい」

「ええ、なにそれぇ!?」

 テイ兄ちゃんから「祖父ちゃん白内障や」としか聞いてへんかったからビビるのはうちの方や。

「それで、目ぇの中にガス入れてな、そのガス圧で穴を塞ぐんや」

「ええ……」

「いろいろ聞いたんやけど、うまくいっても、かなり視力が落ちるらしい。特に、儂のは焦点のとこやし、字ぃ読みにくなるやろなあ……さくらの顔も見ても、そのつぶらな瞳は見えへんかもしれん」

「お、お祖父ちゃん……」

 東京と大阪の二重生活、やっぱり家族のことは、ちょっとおざなりになってるんやろか……と自責の念。

 こういう時は、話題を変えるに限る。

「テイ兄ちゃんのお見合い相手、めっちゃ美人さんやってんなあ! あんな気合いの入った見合い写真見るのん初めてやったし」

「え、なんで知ってんねん?」

「リビングのテーブルに置きっぱなしやった」

「ジュンサイなやっちゃなあ……あ、ヨダレとか付けてへんやろなあ」

「そら、もちろん、きれいなまま返さならあかんやろし」

「いや、返さんでもええと思う」

「え?」

「相手さんがな、このまま話進めてくれて、言うてくれてはるんや」

「ええ、それてぇ(# ゚Д゚#)!?」

「声大きい」

「ごめん」

「どこを気に入ってくれはったんかなあ、ありがたいこっちゃ」

「せやかて、あの人、神社の巫女さんやろ?」

「ああ、そらかめへん」

「そ、そうなん?」

「神仏習合の観点からは、仏さんも神さんも同じもんやさかいなあ」

「シンブツシュゴウ?」

「ああ、神さんも仏さんも同じいうこっちゃ」

「え、そうなん……」

「ああ、阿弥陀さんは神社では八幡さんと同じいうことになってる」

「へ、へえ……」

 いや、正直、神仏習合はどうでもええんです。

 あんなベッピンさんがテイ兄ちゃんのお嫁さんになるっちゅうのが……青天の霹靂を通り越してブラックスワン。

 来年の日本は、果たして無事なんやろか……(;'∀')

 

 
 ☆・・主な登場人物・・☆

酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 酒巻栞(原画) 
声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)  相野千春(声優の先輩)
 
 

 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!93『乃木坂学院高校』

2024-12-19 08:32:40 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ  これでも悪魔だ  悪魔だけどな(≧▢≦)!
93『乃木坂学院高校』 






「ねえ、ちょっと日向ぼっこしていかない」


 相談室の鍵をかけながら柚木先生が言った。

「え、あ、はい」

 仁科香奈の姿をしたマユが応える。もう手続きも終わったんで、ちょっと気持ちがつんのめるぜ。

 退学の手続きにきたら、担任に設定してあった柚木先生に最後の説得をされちまった。


 ちょっと意外だったぜ。


 この仁科香奈の姿は、不可抗力で、目の前にいた大石クララと拓美に貸したマユ自身のアバターを足して二で割った姿だ。

 正式に地獄の小悪魔補習規定にのっとて作られた公式アバターじゃねえ。

 だからよ、経歴も関係者の記憶もかなりいい加減な設定にしかできてねえ。
 乃木坂学院の生徒になったのも、それまで入り込んでいた美優が乃木坂の出身で、美優の記憶がそのまま使えるからという便宜上の理由だけだ。

 だから友だちも居ねえし、部活もやってねえし、担任に埋め込んだ記憶もそうとう粗っぽくて、平均的で目立たない生徒という認識でしかねえ。

 だからよ、退学については、ごく簡単な事務処理で済むと香奈の姿をしたマユは思っていたんだ。

 それがよぉ、退学届けを持ってくると、その柚木先生に相談室に呼ばれ、一時間ちょっと説得されちまった。

 意外にも、柚木先生は自分自身を責めていやがった。

――わたしは、この仁科香奈のことについて何も知らない。面談や懇談をやった記憶はある。でも、可もなく不可もない子だったので、ほとんど意識に留めることもなかった。その仁科香奈が、密かにこの乃木坂学院に見切りをつけ、こともあろうに……と、言っちゃいけないんだろうけど、アイドルグル-プのオモクロのオーディションをうけるという。そんなに乃木坂学院は、いや、この柚木学級、柚木という教師には力も魅力もないのだろうか……――

 マユは香奈の心で申し訳なかったぜ。柚木先生は、いわばエキストラっちゅうか、村人1とかのNPCみてえななもんでよ、仁科香奈について細かい記憶なんかはインストールしてなかっんだ。柚木先生は、それが担任としての落ち度のように感じていやがる。

 魔法というものは、白魔法にせよ黒魔法にせよ怖いものだと感じたぜ。

「わたしね、演劇部の顧問やってるの。仁科さんに、そんな気持ちがあるんだったら、入学したときに勧誘しとくんだったなあ……」

「あ、わたしがやりたいのは、演劇じゃなくて、オモクロやAKRみたいなエンタメですから」

「そうなのよね……今の高校演劇は、あなた達みたいな子を引きつける力がないのよね」

「そんなことないです。ただ、わたしがやりたいことが違うだけで……」

「うちの演劇部は、もともと、そういうエンタメ的な力ももっていたわ。もうお辞めになったけど、貴崎マリって先生が、グイグイ引っ張ってらっしゃって、部員も三十人ほどもいてね、歌って踊ってお芝居もできるって、東京でもトップクラスの演劇部だったのよ。それが、ちょっと事故が重なって、貴崎先生はお辞めになるわ、部員は三人にまで減ってしまうわで、一時は廃部寸前までいったの。でも、生徒の力ってすごいのよ。そんな演劇部を復活させて、秋の予選じゃ最優秀。二年生の仲まどかって子が中心にがんばって、その奮闘ぶりが凄くって、本にまでなったのよ」

 柚木先生は、一冊の本を取り出した。

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』

 一見ラノベの形式だけど、半年にわたる仲まどかたち、演劇部の子たちの奮闘ぶりが書かれていやがる。

「あげるわ。なんかの参考になったら嬉しい」

「あ、ありがとうございます(^_^;)」

「それから、仁科さんと同じように中退した子だけど、坂東はるかって子も、女優になってがんばっているわ」

「え、坂東はるかって、乃木坂の中退だったんですか!?」

 マユも人間界に来て半年あまり。並の女子高生としての知識はある。坂東はるかは、いま売り出し中の若手女優だ。たしか、大阪で現役高校生のまま新幹線で通って女優の仕事をこなしているはず。ネットで自伝的なノンフィクションを書いていやがった。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語』

 そんなタイトルだ。

「坂東はるかって子のことだったら、その『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』にも出てくるわ。仲まどかとは幼なじみだから」

 柚木先生は、マユの心を読んだように答えやがる。人間は、時に悪魔か天使のように心を読んだり、勘を働かせたりすることがある。それは、葬儀を済ませたばかりの美優も同じだったぜ。

 マユは、人間界に補習に出された意味が分かってきたような気がしたぞ。

 あ……

 いつの間にか、理事長先生が後ろに立っていやがる。もう九十を超えているってのに、髪の毛以外はカクシャクとしていやがる。

「仁科さん、わたしの目を見てくれんかね」

「あ、はい……」

 優しいが深みのある目をした先生だ。仁科香奈の心で、マユは、そう感じたぞ。

「いい目をしている。できたら、うちの学校でまっとうして欲しかったが、きちんと決心したんだね?」

「……はい」

 理事長先生は、自分の目を見ろと言って、マユの目を観察していやがったんだ。

「もう、今さら、わたしから言うことはない。柚木先生といっしょに見送らせてくれんかね」

 プラタナスの枯れ葉を踏みしめ、仁科香奈の姿のマユは乃木坂を下る、背中に二人の先生の視線を感じながら。

 たまらずに振り返ると、先生は二人で小さく手を振っていやがったぜ……。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • デーモン     マユの先生
  • ルシファー    魔王、悪魔学校の校長 サタンと呼ばれることもある
  • レミ       エルフの王女
  • ミファ      レミの次の依頼人  他に、ジョルジュ(友だち)  ベア(飲み屋の女主人) サンチャゴ(老人の漁師)
  • アニマ      異世界の王子(アニマ・モラトミアム・フォン・ゲッチンゲン)
  • 白雪姫
  • 赤ずきん
  • ドロシー
  • 西の魔女     ニッシー(ドロシーはニシさんと呼ぶ)  
  • その他のファンタジーキャラ   狼男 赤ずきん 弱虫ライオン トト かかし ブリキマン ミナカタ
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー 地親は黒羽英雄
  • 由美子      英二の妹
  • 真田       由美子の元カレ
  • 美優       ローザンヌの娘 英二の妻
  • 光 ミツル    ヒカリプロのフィクサー
  • 浅野 拓美    オーディションの受験生
  • 大石 クララ   オーディションの受験生
  • 服部 八重    オーディションの受験生
  • 矢藤 絵萌    オーディションの受験生
  • 上杉       オモクロのプロディューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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