巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
「時司さん、どうだろ、24日までやってもらえないかなあ」
ネクタイを締めてない方のカチョウ(漢字では科長らしい)に頼まれて続けることになってしまう。新しく来た四人のうち三人が辞めて行ったんじゃ仕方ない。
郵便の関西弁は、相変わらず鼻歌交じりのマイペース。「チャッチャとやるでぇ♫」「ほら、そこや!」「伝票取ってちょんまげ(^^♪」「口より手ぇを動かせよ!」「ガムテ使ぅたら元に戻す~♪」「スイッチのオン・オフは指さし確認!」
てな具合。さすがに怒鳴りつけることはしないみたいだけど、この言葉の圧は関東の、それも女子高生やら短大生には厳しいよ。
10円男は、わたしともう一人残ってるチヨちゃん(金田千代子)をガードしようと、さりげなくフォーローしている。道具の置き場に気を配ってるし、チヨちゃんに声をかける時には笑顔を心がけてるし、関西弁が気にしそうなことは、あらかじめ手を打ってるっぽい。
こんなことがあった。
チヨちゃんが伝票の箱をひっくり返しそうになって「オットぉ!」と滑り込むようにして受け止めてやり「ニイチャン、ジャイアンツの外野手が務まりそうやなあ!」と関西弁が褒めた。
「え、ジャイアンツ限定ですか?」
「ああ、阪神では務まらんなあ」
「なんでですか?」
この時代のジャイアンツは阪神なんて目じゃない、圧倒的な日本一なんで、他の人も思わず聞き耳を立てる。
「阪神やったら、どさくさに紛れて、オケツや胸を触っとく」
プッ( ´艸`)。
思わず吹き出す人が半分、嫌な顔する人が半分。
当のチヨちゃんは顔を赤くして俯いて、10円男は気まずそうに持ち場に戻る。戻りながらも――気にすんなよ――という感じでチヨちゃんの肩をたたき「敵わねえなあ安藤さんわぁ(^_^;)」と頭を掻く。
「せやろせやろ、ワハハハ(ᵔᗜᵔ*) 」
そして、何事も無かったようにフロアの作業は続いていく。
「なんか、学校とは別人だね」
食堂のテーブルで褒めてやる。
「え、あ……」
ズルズルズルと蕎麦を掻っ込んでから「そうかぁ」と言葉を結ぶ。
「あんたさあ、労働現場に向いてるよ」
「オレはジャーナリストを目指してんだ」
ゲフ( >○<)。
「大丈夫かぁ?」
「もう、咽るじゃない! そんなの初めて聞いた、似合わないし」
「初めて言うし」
「ふ~~ん」
「とりあえず、二期校めざす」
「本気ぃ!?」
「ああ、仲間はたいてい一浪してやがるから、入っちまえば同列になる」
ああ、まだ引きずってやがる……と思うけど口には出さない。
「んだよ……?」
「そう、まあ、がんばって」
「……なんか、バカにしてる?」
「ええ、どうしてそうなんのよ」
「だって、その目がぁ」
「目なんて関係ないでしょ」
「オレは蕎麦なのに、おまえはうどんだしぃ!」
「なによ!」
ドン
もうヒトコト言おうと思ったら、目の前にコーラが二本置かれた。
「そうか、君たちはそういう関係やったんやなぁ……ささやかなお祝い、グッとやってちょうだいませぇ~」
「ちょ!」「ちがうし!」
関西弁は後ろ手でバイバイして、一人納得して食堂を出て行った。
ヤレヤレ、今日は、これから90分の残業だ。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 2年3組 クラスメート
- 辻本 たみ子 2年3組 副委員長
- 高峰 秀夫 2年3組 委員長
- 吉本 佳奈子 2年3組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 2年3組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 安倍晴天 陰陽師、安倍晴明の50代目
- 藤田 勲 2年学年主任
- 先生たち 花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀 音楽:峰岸 世界史:吉村先生 教頭先生 倉田(生徒会顧問) 藤野先生(大浜高校)
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- 御神楽采女 結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
- 早乙女のお婆ちゃん 三軒隣りのお婆ちゃん
- 時司 徒 (いたる) お祖母ちゃんの妹
- 妖・魔物 アキラ
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
- 安藤さん 伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人